日本はカビ毒の基準値設定が遅れている
とはいえ、近年は、地球温暖化の影響が心配されます。小西教授は「温暖化によりカビの土壌中での分布が変わってきていることを示すデータもある」と説明します。
小西教授は、日本で基準値設定されたカビ毒の少なさが気になる、と言います。アフラトキシンとデオキシニバレノールは基準値がありますが、オクラトキシンAはこれから。ところが、フモニシンというカビ毒は、とうもろこしを汚染しやすく、ウマやブタの病気を引き起こし、ヒトでは大量摂取と胎児の神経管閉鎖障害(NTD)との関連が示唆されています。しかし、日本では基準値が設定されていません。
国際基準が設定されているのに、日本では基準値が設定されていないカビ毒があるのです。小西教授は「基準値がないと、各国で基準値超過とされた食品が日本に流れ込んでくるおそれもある。国際基準が設定されているカビ毒については、日本も早く基準値設定に動くべきだ」と警鐘を鳴らします。
少なくともカビの生えたものは食べない
カビ毒の課題は多数あるのに、怖さが消費者に知られていません。内閣府食品安全委員会は2022年度、カビ毒に関するセミナーを開くなどして、「天然自然だから安全」ではないこと、食品にカビが生えている場合、カビの菌糸が伸びてカビ毒を菌糸外に産生している可能性があるため、カビの部分だけを取り除いて食べるのはよくないことなどを伝えました。
今回の紅麹サプリメントの問題は、機能性表示食品の事件ではありますが、食品生産においてカビの制御が非常に難しいことを示しています。
小西教授は「世界では、カビ毒の被害が深刻です。食品の生産や収穫、保管等の管理がうまくいかずカビが生えてしまった食品を、大量に廃棄せざるを得ない現実もあります。対策は急務です。行政はカビ毒の規制対象を世界水準にしてほしい。また、消費者も、少なくともカビの生えたものは食べないで。一つの食品ばかり食べず、さまざまな産地の食品を食べてリスク分散を図ってほしい」と話します。
※記事は、所属する組織の見解ではなく、ジャーナリスト個人としての取材、見解に基づきます。
〈参考文献〉
小林製薬
厚生労働省・健康被害情報
農林水産省・食品のかび毒に関する情報
Koninklijke DSM N.V.・Download the dsm-firmenich World Mycotoxin Survey January to December 2023
内閣府食品安全委員会・2022年度報道関係者との意見交換会 食品に生える「かび」の基礎知識と「かび毒」の評価