年配女性も一部が終盤で脱落
視聴率全体に最も影響を与えた年配女性の動向からも、ドラマの課題は見える。
「音楽番組好き」は半年の間、基本的には高い数字のまま推移した。ところが「ドラマ好き」「感動重視派」は、終盤の2~3月で明らかに失速した。
注目すべきは1月末から2月初めの週以降。スズ子は大きなお腹を抱えて「ジャズカルメン」の舞台に立った。ところが愛助は鑑賞を断念し、そのまま東京に戻れずに亡くなる。
この週は「音楽番組好き」を含めて3つの層とも視聴率を落とした。ただし「東京ブギウギ」でスズ子が歌手に復帰し、「ジャングルブギ」も出す次の2週で、「音楽番組好き」の視聴率は回復する。ところが「感動重視派」は微増にとどまり、「ドラマ好き」に至っては逆に下落してしまった。
さらに以後は、「音楽番組好き」と他2層の上下動が逆になることが増える。明らかに今回の朝ドラに何を求めるかによって、ドラマの評価が反対になっていったようだ。
「お仕事パートはワクワクして楽しいのに、後半一気につまらない」
「もっと歌手としての苦悩とか喜びとか深掘りして欲しかった」
「(後半だめだったのは)私はこのドラマの芸能のエピソードを楽しみにしていたからだろう」
音楽とドラマ。煌びやかな表舞台と人間の内面。こうした異なる局面を併せて見たいというニーズに、残念ながら今回のドラマは応えきれていなかったようだ。名作ドラマは、異なる位相とそれぞれの関係性を見事に描いてこそ名作と称賛される。残念ながら、そこまでには届いていなかったようだ。
それでも記憶に残るドラマ
展開には課題があったとしても、それでも記憶に残るドラマだった。
ライブシーンを核にした、これまでにない音楽芸能ドラマというユニークな作り。そして主人公を演じた趣里や羽鳥善一役の草彅剛の存在感だ。
「すべてをステージで解決するストロングタイプではあったけど、歌や踊りってそれぐらい力があるよねと思わせてくれた」
「趣里ちゃんのような華と才能のある女優に出会えて楽しい半年間でした(中略)笠置シヅ子さんの歌がたくさん知れて、こんなドラマをもっと見たいと思った」
「シヅ子の掛け合いのうまさが光って、コミカルでよかった」
「“俳優・草彅剛”しっかり記憶に残せたね(中略)喜びから複雑な心境を宿した表情まで、全部見入った」
朝ドラはここ数年、大胆な挑戦が目立つ。
昭和の音楽史を代表する作曲家と、その妻の生涯を描いた『エール』(2020年春・窪田正孝主演)。
ラジオ英語講座と共に生きた母娘孫三代の百年にわたる悲喜劇『カムカムエヴリバディ』(21年・上白石萌音、深津絵里、川栄李奈主演)。
日本の植物学の父・牧野富太郎をモデルにした『らんまん』(23年・神木隆之介主演)。
いずれもスケールが大きく、日本の一側面を描いた秀作で記憶に残るドラマだった。
さて次は日本初の裁判所長となった三淵嘉子をモデルとする「虎に翼」(伊藤沙莉主演)。法の世界から日本社会に斬り込みつつ、人間ドラマとしてどう感動を視聴者に送り届けてくれるのか。できたら若年層にも多く見られるバランスの良いドラマを楽しみたい。