人間と違い、寿命の半分を子育てに費やす
卵や幼虫は常に清潔に保たないとカビや病原体によってすぐに死んでしまう。そのため、夜、休むことなくグルーミングをするなどのお世話が必要だ。しかし、蛹は繭に包まれるため、さほどの世話は必要ない。手がかかる間は、自らの睡眠時間を削ってでも大切に面倒を見て、成長すると、そんな生活も終わる。それは人間もアリも同じだ。
ただ、人間と違うのは、トゲオオハリアリの場合、子育てからの“卒業”はなかなかやってこないことだ。2~3年の寿命のうち半分程度は子育てにかかわることになる。アリにとって、子育ては重要なミッションだということが改めてよくわかる。
もう一つ、子育てのほかに、トゲオオハリアリの概日リズムが崩れる時がある。それは「女王がいなくなった時」だ。実験で、コロニーから女王アリを除くと、働きアリたちは四六時中バタバタバタバタ、忙しなく、おちつかない様子で動きはじめる。
次の女王アリをめぐるドタバタ儀式
もともと、トゲオオハリアリは「ゲマ切り」という儀式を経て、女王を決める珍しいアリだ。全員、「ゲマ」という翅の痕跡器官を持って生まれ、誰もが産卵個体になる機能とチャンスがある。誰が女王アリになるかは、羽化直後に決まる。働きアリや女王アリに「ゲマ」をかじりとられると働きアリとなり、最後までゲマを残すことができると女王アリとなるのだ。
つまり、トゲオオハリアリの働きアリは誰でも基本、産卵することができる。そのため、なんらかの理由で女王の座が空席となったら、そこから産卵する権利をめぐるドタバタの儀式がはじまるのだ。
ゲマ切りされて失った産卵する機会を再び取り戻すチャンスに、働きアリ同士が牽制しはじめる。「新女王に私がなる!」という意志のもと主導権争いをしているわけではないだろうが、コロニーの中は不穏な状態になってしまうのだ。
しかし、新しい産卵個体が決まるとコロニーが安定するかというとそうでもなく、多くのコロニーは衰退していく。内紛はあまりいい結果は生まない。これはアリに限ったことではないかもしれない。