「なぜだかわからないけどピンときた」

とはいえ、地方の高校に留学しただけで本当に子どもは変わるのか? という疑問も湧くだろう。それに対する解答の一例が、健斗くんのケースである。

不登校が続いていた中学3年生のとき、健斗くんは親のすすめもあって、地方の高校に進学する道を模索し始める。夏には親子で名古屋の学校へ見学に行った。

「でも、あまりピンと来ませんでした。その帰り道、お母さんが『こういうイベントもやっているよ』と言って連れていってくれたのが、地域みらい留学の説明会だったんです」

地域みらい留学では、参加する各校がブースを設ける合同学校説明会や、個別の相談会などを随時開いている。健斗くんが行ったのは、「地域みらい留学フェスタ2019」。約50の高校が出展していた。会場内を回り、十数校の説明を聞いてみたが、なかなか興味を持てる高校が見つからなかった。

「そんなとき、校長先生がポツンとひとりで座っている学校があったんですよ。生徒が来てキラキラ楽しそうに話している高校が多いなかで、なぜかその校長先生の雰囲気にひかれて、話を聞いてみることにしたんです。それが僕が留学することになったA高校でした。初めて聞く学校だし、学校がある島のことも知りませんでした。

でも、なぜかわからないけどピンと来るものがあったんです。校長先生から『A高校がすべての生徒に向いているかはわからないけど、きみには合う気がする』と言われて、ここならきっと自分は輝けると感じました。いま思うと、運命の出会いだったのかもしれません」

帰り道、健斗くんは母親に「A高校に行く!」と宣言。2週間後には実際に島を訪問し、町や高校を見学した。

写真提供=地域・教育魅力化プラットフォーム
合同学校説明会のブース。学校ごとに特色がある(※本文で紹介しているケースとは関係ありません)

ここは僕を受け入れてくれる場所

島に渡って最初に驚いたのが“挨拶”だった。

「道ですれ違った中学生の集団に、いきなり『こんにちは!』と挨拶されたんですよ。都会で知らない人に挨拶したら『えっ、だれ?』となるじゃないですか。でも、島の人たちは外から来た知らない人にも必ず挨拶するんです。そのとき、ここは僕を受け入れてくれる場所なんじゃないかって思えたんです」

現地で島の人々の温かさに触れ、「ここならいい3年間を過ごせそうだ」という思いを深めた健斗くんは、進学の準備を始める。

受験には推薦制度を利用することになったが、健斗くんの場合、出席日数と内申点の問題がある。そこで彼は中学の校長に直談判することにした。面談の場で、健斗くんはA高校へ行きたいと思った動機を必死でプレゼン。その結果、校長から「応援するよ」と言ってもらい、推薦を出してもらえることになった。

2020年の春、生まれ育った関東を離れ、島での新生活が始まった。

写真=iStock.com/SAND555
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