2月は中学受験を志す多くの小学生が通う塾の「新年度開講の月」にあたる。『ぼくのかんがえた「さいきょう」の中学受験 最強と最凶の分かれ道』(祥伝社新書)を上梓した中学受験塾経営者の矢野耕平さんは「このタイミングで塾通いを始めるという家庭も多いが、最近、入塾の動機に関して“危険”なものもあり、家庭でよく考えるべき」という――。
日本での学校生活
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「なぜ、わが子の中学受験を始めるのですか?」

2024年2月1日にスタートした東京都や神奈川県の国私立・公立中高一貫校の入試が終わった。2月は、中学受験塾にとって「新年度開講」のタイミングでもある。この時期からわが子が塾通いを始めるという家庭も多いだろう。

中学受験を始める動機として、保護者から耳にするのは次の2点である。

① 「地元の公立中学校は、『教育熱』の低い家庭の子供たちが集まるので、全体的に学力レベルが低いようだ。わが子はそんなところで学ばせたくはない」
② 「幼稚園から家族ぐるみで付き合いのあるAさんのお嬢さんが○○塾に通い始めて中学受験をするらしいので、ウチもそれにならって○○塾に通おうと考えています」

結論から申し上げると、この2点は中学受験をスタートする動機としては“危険”である。それは一体どうしてだろうか。順番にその理路を説明していきたい。

「公立サゲ」の中学受験はわが子の首をしめる危険性

地元の公立中学校への不信感から中学受験を選択する家庭は存外に多い。

だが、「教育熱の低い家庭の子供たちが公立中学校に集まる」は本当なのだろうか。

1都3県(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)ベースでみると、小学校6年生全体の中で2月1日午前中に私立中学校を受験する子供(首都圏の私立中学受験者総数の近似値とされる)は約15%である。残りの約85%の子供たちは地元の公立中学校へ進学する。これをもって「中学受験ブーム」と称される中学受験は「特殊」な世界であるといえる。

ただし、東京都千代田区・中央区・港区・文京区・渋谷区・品川区・目黒区・世田谷区といったエリアの場合、通う小学校によっては7~8割が中学受験を志す子供が占めることもある。

中学受験はお金のかかる世界である。わが子をその道に歩ませるだけの教育費を捻出できるかどうか、親の収入事情と大きく関係している。中学受験をするか否かは「エリア」と「世帯収入」によって左右される。しかし、当然のことながら、そのエリア居住の家庭はみな「教育熱」や「学力」が高いとは言えない。

よくこんな言説が流れてくる。