全体的な学力において中学受験者層>高校受験者層とは言えない

「中学受験者層は平均的な学力が極めて高いので、たとえ偏差値40であろうと、それを高校受験のそれに換算してみるとトップ層に食い込むことを意味する」

真っ赤なウソである。

中学受験者層と高校受験者層の学力の平均値を算出したとしたら、おそらく前者のほうが高く出るだろうが、そこまで圧倒的な差はないように思う。わたしは二十年近く前まで高校受験指導にも携わっていたが、中学受験をしたら間違いなく最難関校に合格できる実力のある子供が公立中学校に何人も在籍していたのを見ている。中学受験でいわゆる上位校を受験する子の学力は確かにとびぬけているが、そこに達しない子のほうが多い。学力差の高低はかなり大きいのが現実だ。つまり、全体的な学力において中学受験者層>高校受験者層とは言えない。

日本の制服の生徒たち
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そして、保護者から「公立サゲ」で中学受験を勧められたような子供たちが地元の公立中学校に進む周囲の友人に対して優越感を抱いてしまい、トラブルに発展したという事例もしばしば見聞きする。

それだけではない。

中学受験を選んだわが子が結果として「公立中学校」に行く可能性もあるのだ。受験した中学校がすべて不合格であるかもしれないし、中学受験勉強の中で壁にぶつかって受験を断念し、地元公立中学校に進むこともありうる。そうなったら、「公立サゲ」の価値観を植え付けられた子は、「自分はダメ人間だ」と自信喪失してやる気をなくしたり、勉強嫌いになったりすることもある。

「公立サゲ」が動機の中学受験は、わが子の首をのちのちしめる危険性があるのだ。一方で、「私立サゲ」をする公立礼賛派の人たちも存在する。彼らはよくこんなことを口にする。

「所得層の高い家庭で育った子供たちが集まる私立中高一貫校には多様性がない。公立中学校には家庭に貧富の格差が見られ、それは社会の縮図であり、子供たちにとって良い学びの場である」

でも、ちょっと待ってほしい。

家庭の懐事情で失われてしまうほど、「多様性」なるものは脆弱ぜいじゃくなのか?

貧困家庭で育った子供たちは、あなたのお子さんの「教材」なのか?

こんなふうに、わたしはこの弁に対して違和感と憤りを覚えてしまうのだ。