米銀が日銀当座預金口座を閉鎖するとは日本での銀行業務から撤退することを意味する。さまざまな弊害があるが、特にドル/円の取引が不可能になるのが怖い。

ドル/円のリンクがはずれれば、円はローカルカレンシー(地域通貨)化する。そんな通貨を世界は相手にしない。貿易でも、為替市場でも円は受け取ってくれない。円の大暴落だ。

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制裁のためにスイフト(国際金融取引の決済ネットワーク)から除外されたロシア・ルーブルと同じ状態になる。ロシアは産油国であるため、「ルーブルでなければ原油を売らない」と脅しかけルーブルの価値をある程度保つことができたが、円にそれは期待できない。

「Xデイ」はいつなのか

「Xデイはいつなのか。それが言えないのならフジマキの主張はいい加減である」とよく言われる。

そのきっかけとなり得る一つが、米銀の日銀当座預金口座の閉鎖だと思っている。撤退の意思決定は米銀審査部のごく少数の幹部や経営陣が秘密裏に行うだろう。私には彼らがどう分析するかはわからない。彼らの頭の中までは見えない。

日銀が純資産である限り、そのような決断はしないのではないか、と思っている。しかし日銀が債務超過になったら話は別である。日銀が債務超過に陥るのか、いまだ純資産であるかは、極めて重要なポイントなのだ。

日銀もその点は十分わかっている。だからこそ1%を超える長期金利の上昇を絶対に許すわけにはいかないはずだ。黒田東彦・前総裁時代から、日銀はETF(上場投資信託)の爆買いを続けてきた。株式の含み益の額によって債務超過に陥るレベルは多少上下するだろうが、1%からそれほど離れているとは思えない。

いずれにせよ、日銀が許容できる金利上限は、もう目と鼻の先なのだ。

令和5年4月10日、岸田総理は、総理大臣官邸で日本銀行の植田和男総裁と就任に当たって会談を行いました(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

日本円の大暴落は一瞬で起きる

経済評論家やマスコミは、物価上昇を抑えるために「YCCを撤廃するべきだ」と主張する。もちろん植田総裁は十二分にわかっている。

しかしYCCを撤廃すれば、長期金利1%をはるかに超える。債務超過、円のローカルカレンシー化、すなわち大暴落の引き金をひいてしまう。そうなればハイパーインフレに一直線だ。日銀にYCC廃止などできるわけがないのだ。

外資の日銀当座預金閉鎖は一晩で起こりうる。その時、日本円しか持っていない日本人はどうやって資産を守るのか。そんなリスクを背負うことを賢明だとは思わない。

なお、金融論的には、「中央銀行が債務超過に陥っても大丈夫な条件」が3つある。

① 債務超過が一時的である。
② 金融システム救済のために債務超過になるが中央銀行自体のオペレーションは健全である。
③ 国家の財政が健全化に向かっており、近い将来、税収で、中央銀行の債務超過を補塡ほてんできる

との3条件である。米銀の審査部はこの辺を考えながら、日銀当座預金を閉鎖するか否かの判断をすることになるだろう。現在の日銀は上の3条件、どれ一つ該当していない。