債務超過の中央銀行が、ひとたび信用を失うと…

そして債務超過の最も恐ろしいのは、その企業の信用が著しく傷つくことだ。日銀であっても同様である。

中央銀行の信用が傷つけば、発行する通貨の信用は失墜する。日銀自身が、このことを十分認識しているのは明らかだ。雨宮正佳・日銀副総裁(当時)は、日本金融学会の2018年度秋季大会で「マネーの将来」と題した特別講演を行い、こう発言した。

「もちろん、中央銀行への信用がひとたび失われれば、ソブリン通貨といえども受け入れられなくなることは、ハイパーインフレの事例が示す通りです」

要は、中央銀行への信用が失われれば、その発行する通貨の信用は失墜しハイパーインフレ(=通貨価値の大暴落)が起きるとおっしゃったのだ。中央銀行の信用失墜の最たるものの一つが債務超過だ。

自国民ならともかく、外国人は債務超過の中央銀行が発行した通貨など信用しない。輸出しても、そんな通貨よりドルを所望する。貴重なドルを売ってまで、そんな中央銀行が発行する通貨など受け取らない。

銀行が入っているのは、重厚感のある建築
写真=iStock.com/Warchi
※写真はイメージです

外資系銀行は日銀の財務状況を冷静に見ている

私が1985年に邦銀からJPモルガンに転職した時に驚いたことがある。

邦銀ではG7の政府や中央銀行に対しては取引枠はなかった。青天井で取引できた。国債の保有や中央銀行の当座預金に残高を置くことは、信用リスクの観点からは無制限にできたのだ。

ところがJPモルガンではG7の国であれ中央銀行であれ、取引の上限枠が設定されていた。これにはかなりのカルチャーショックを受けた。米銀は倒産の可能性を考慮し、リスク管理をしている。取引枠があるということは、信用力が落ちたら枠を縮小し、さらには閉鎖することがあるということだ。

特に、債務超過が一時的でなく、どんどん大きくなると思えば確実に閉鎖だろう。外資は日本人や日本政府のために日本に進出しているわけではない。株主の利益極大化のために行動している。株主の損失回避は経営陣の最重要な責務である。

欧米銀行が日銀当座預金を閉鎖すると…

一般の方は、日銀に預金ができないから日銀の口座にはなじみが薄い。しかし、日銀当座預金とは日本経済にとって極めて重要な口座だ。

日本の経済的取引の最終決済は、この口座で完結する。たとえば、手形交換。約束手形は手形交換所で交換されるが、その裏の資金決済(各銀行の勝ち負けをネットアウトした金額の決済)は日銀当座預金口座を通じて行われる。国債取引、株取引、内国為替、外国為替、すべてそうだ。

日銀当座預金を閉鎖した場合、日本国内でのあらゆる銀行業務はできなくなる。民間金融機関が日銀検査を異常に怖がる理由の一つである。日銀当座預金閉鎖は銀行業の廃業命令と同義である。