顔は社会と人間をつなぐ“通路”

――今後、「自分の顔」と社会との関係はどのように変化していくでしょうか。

社会が複雑化し、化粧や、写真加工の技術が高度化してくると、他人と自己像との関係がより複雑になっていきます。また、インターネットの世界では、アバターの存在も大きくなってきています。そうなれば、写真や動画における顔加工が流行しているいま以上に、顔は仮面のように、いかようにも取り換え可能な時代になってきているのかもしれません。

素顔であれ、仮面であれ、外面はつねに自己の内面と深い関わりを持っています。しかも、その自己の内面は、外面の影響を受けて容易に変化する可塑かそ的で不安定なものなのです。そして、いずれの外面も、他人の反応から自己の顔を想像するという点で、自己と他人の関係性からつくられる想像的な共有物なのです。

ただ、想像的なものだといっても、それがないと私たちの自己は不安定になり、他人との関係もうまく機能しなくなるのです。つまり、本物の顔であれ、偽物の顔であれ、「顔」というものは、私たちが社会で生きていくうえで、必要不可欠な通路なのです。

中野珠実『顔に取り憑かれた脳』(講談社現代新書)

今後、技術の発展によっていま以上に自分の顔を加工しやすくなる、あるいは取り換えやすくなるようになれば、自分と他人や社会との関わりも変化していくでしょう。

――今後はどのような研究を進めていく予定でしょうか。

顔についての研究からさらに踏み込んで、「心」の謎に迫っていきたいと考えています。

自己とは何か、自己に対する他人とは何か、人間の脳はそれをどうやって作り出しているのか、そこに心はどう関係しているのか。人工知能や脳とコンピューターをつなぐ研究など、脳を機械的なものとして捉える流れがありますが、私はどちらかといえば、人間とは何か、心とは何か、そもそも心なんてあるのか、そうしたところを研究していきたいと考えています。

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