※本稿は、井ノ口馨『アイドリング脳 ひらめきの謎を解き明かす』(幻冬舎)の一部を抜粋・再編集したものです。
どのように記憶し、思い出すのか
人はどのように記憶して、思い出すのでしょうか。たとえば、普段は全く忘れていることでも、思い出そうと頑張るとつらつらとよみがえってくる瞬間があります。
一方で、思い出したくないことを、何かの拍子に思い出してしまうこともあります。極端な例がPTSD(心的外傷後ストレス障害)です。災害や事故を経験した人が、人混みや乗り物など直接は関係ない状況でトラウマの記憶がよみがえってしまうというような症状です。
なぜこんなことが起きるのでしょうか?
この問いには、そもそも記憶がどのようにしてつくられるかが関係しています。
記憶は、アイドリング脳にも密接に関係する事柄なので、ここから僕の研究成果とからめながら、記憶のメカニズムについて紹介していきます。
記憶は、脳の中で物理的につくられています。
記憶はニューロンによってつくられている
その担い手は、脳の神経細胞。ここからは「ニューロン」とよびましょう。ニューロンの仕事は、情報を伝えることです。1つのニューロンの細胞内では、電気信号によって情報が伝わっていきます。ニューロンとニューロンのつなぎ目では、いったん電気信号は途絶えます。
つなぎ目にはわずかな隙間があり、この隙間に化学物質が放たれ、反対側でキャッチされることによって、信号が伝わります。この伱間を含むニューロンのつなぎ目を「シナプス」といいます。
人間の脳全体には約1000億個のニューロンがあります。そして、互いにシナプスでつながりあって、ネットワークをつくっています。
……とひとことで片付けましたが、そのネットワークは想像するのも難しいほどの複雑さを有しています。図表1では、1つのニューロンが別の1つのニューロンとつながっています。
これが実際の脳では、哺乳類の場合、1つのニューロンが、数千〜数万の別のニューロンとつながっているのです。約1000億個のニューロンがそれぞれ数千〜数万の別のニューロンとネットワークを形成しています。
ネットワークの様子を思い描けますか?パソコンで言うところの頭脳はCPUという計算装置ですが、シングルタスクで情報を順番に処理していくことしかできません。しかし、脳は膨大な情報をマルチに処理できます。あなたの脳ではこの極めて複雑なネットワークが、混乱することなく高精度で機能しているわけです。


