透けて見える首相の「政治的孤立」

こうした茂木氏や塩谷氏の「放置プレー」が、首相を「窮地」に陥れ、「サプライズ」につながっているのだが、ここから透けて見えるのは、岸田首相の「政治的孤立」ではないのか。麻生氏がかつて「どす黒いまでの孤独」と表現した首相の心境である。

岸田首相は、戦略の立案や立ち回りができる参謀がおらず、側近の木原誠二幹事長代理と相談するだけで、物事を進めて行く。その判断の基になる情報だけでなく、自分の決断がどういう波紋を呼ぶかという想像力が決定的に不足している。

そこへ派閥解散によって、各派の領袖や幹部との調整ができなくなり、党内世論も集約できないという事態に追い込まれているのではないか。

その首相がこれから直面するのは、安倍、二階両派幹部らの処分問題だ。首相は2月29日の政倫審で、不記載事件に関係した議員について、「再発防止策と並行して事実の確認に努め、関係者の処分など政治責任を党として判断していく」と明言している。

首相は3月9日夜、都内のホテルで麻生氏と会食し、国民の信頼回復のためには、関係者の処分が大前提になるとの認識とともに、党内の反発を招かないよう、手続きを丁寧に進める必要があるとの方針でも一致した。

処分の対象となる不記載議員は83人

党執行部も当初は3月17日の党大会までに党の処分を決定するとしていたが、「手続きを考えると時間的に無理がある」(森山氏)として大会後に先送りされる見通しだ。

党の処分は、党紀委員会で決定する。党の規律を乱すことや党の品位を汚すことがあった場合、幹事長の要請で党紀委員会を招集し、出席委員の3分の2以上の議決で処分を決定する。処分は8段階で、重い順に①除名②離党勧告③党員資格停止④選挙の非公認⑤国会・政府の役職辞任勧告⑥党の役職停止⑦戒告⑧党則などの順守勧告――となっている。

今回の処分の対象となる不記載議員は83人に上る。安倍派幹部からは「我々は既に国会・政府の役職辞任を果たしている」「岸田派も立件されているのだから、首相も処分対象だ」と牽制する声も上がる。

党紀委員長の衛藤晟一参院議員は11日、政治資金問題に絡んだ党則などの改正案を了承した委員会後、記者団に対し、「誰にどういう責任があるのか明らかになっていない。議題にも上っていない」と述べ、茂木幹事長からの指示を待っていると明かした。議題に上るとなれば、委員長交代の必要もある。22年に二階派から安倍派に転じた衛藤氏にも、過去3年間で80万円の不記載があるからだ。