「本人が語ることに意味があった」

馬淵氏は、2月29日と3月1日に岸田首相と安倍派、二階派幹部5人が出席した衆院政倫審については「口裏あわせのような政倫審は、やる意味がなかった」と酷評したが、首相は「弁明と質疑を通じて明らかになったことはあった」「マスコミオープンの場で本人が語ることに一つの意味があったと思う。だから、野党も公開にこだわったのではないか」と述べ、政倫審の意義を強調した。

しかし、岸田首相の派閥解散と政倫審出席は、要路への根回しもなく、戦略性もうかがえないまま、唐突に表明された結果、党内を無秩序状態に陥れている。

自民党は派閥の連合体だ。自民党政権は派閥の合従連衡で形成され、首相・総裁に権力が過度に集中させず、派閥間の共闘や駆け引きで疑似政権交代も果たしてきた。党は派閥を通じて統治(カネとポストを配分)することで、党内世論を集約してきたのだ。

その派閥を解散することは、政治とカネの問題の決着に必ずしもつながらないどころか、麻生派を率いる麻生太郎副総裁が岸田首相とやや距離を置き、茂木幹事長が衆院政倫審や安倍派幹部らの処分問題への対応を意図的にサボタージュするなど、政権の統治機能不全の事態を露呈している。

自由民主党本部
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「こんな自民党は見たことがない」

茂木氏は、岸田派解散をメディア経由で聞き、「事前の相談がなかった」と不満を隠さなかっただけでなく、その後、首相が麻生氏とは関係修復のための酒席を持ち、その後も夜の会食を2回重ねているのに比し、茂木氏とは酒席が実現していないことにも不満に思っているという。

茂木氏は、政治資金収支報告書に不記載があった安倍派や二階派の議員らへの聞き取り調査に続いて、政倫審の出席者の線引きも、森山裕総務会長に任せっ放しで、全面公開を渋る塩谷氏や高木毅前国会対策委員長ら安倍派幹部を説得することもなく、首相が自ら事態を打開するのを横目で見ていただけだった。政倫審の野党筆頭幹事を務める立民党の寺田学衆院議員は、記者団に対し、「ガバナンス(統治)が機能していない。こんな自民党は見たことがない」とあきれて見せた。

衆院政倫審に出席した二階派事務総長の武田良太元総務相は、党幹部から説明責任を果たすよう指示されたかと問われ、「働きかけ、連絡は一切なかった」と明らかにした。茂木氏が1月下旬に塩谷氏に「幹部として政治責任をどうするか」と自ら処分を下すよう求め、安倍派の猛反発を呼び込んだため、それがトラウマとなって動けなかったといわれている。