自転停止で最高時速約1700kmで人間も建物、海、地面も吹っ飛ぶ

それは、猛スピードで走る車が急ブレーキをかけるようなもの。車だってすぐには止まれませんが、それでも中に乗っている人は前に放り出されそうになるでしょう。これを、慣性の法則と呼びます。

慣性の法則とは、万有引力の発見者アイザック・ニュートンがまとめたもので、「誰も手を加えなければ、止まっているものは止まったまま、動いているものは同じ速度でまっすぐ進む」というものです。車に急ブレーキをかけると車は止まろうとしますが、中に乗っている人は(シートベルトを締めていなければ)もとの車の速度で前に進もうとするわけです。

地球の自転は、車とは比べ物にならない速さです。もし地球の自転が止まったとしたら、地球の上にいる私たちもまわりの建物も川や海の水も、赤道付近なら時速1700kmで動き続けようとするのです。

写真=iStock.com/Abrill_
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地上に固定されていないものは猛スピードで吹き飛ばされますし、地面に固定されている木や建物は根元からちぎれたり、場合によっては地面ごと引き裂かれたりするでしょう。吹き飛ばされた物体は、地球の自転と同じく東の方向に時速1700kmで投げ出され、やがて地球の重力に引っ張られて落ちてきます。落下のエネルギーは相当なもので、少なくとも海の一部は蒸発してしまうでしょう。

地球の回転速度は赤道でもっとも速く、緯度が高くなるにつれて遅くなります。

例えば北緯/南緯60度の場所では、速度は赤道に比べて半分の時速850kmです。飛行機と同じくらいの速度ですが、それでも起きることはほとんど変わらないでしょう。

北極点や南極点では、自転の速度はゼロになります。このため、地球が急に止まってもすぐに吹き飛ばされることはありません。とはいえ、緯度が低い地域の空気や水はものすごいスピードで動いていますので、極地と言えどもやがて暴風や大津波が襲ってくることでしょう。即死は免れるかもしれませんが、極地にいても助かる見込みはなさそうです。残念。

地上が壊滅した後は何が起きるでしょうか。完全に自転が止まった場合、地球のある地点に着目すると、地球が1年かけて太陽を1周する間に昼と夜が1回ずつ訪れることになります。昼は長い間高温にさらされ、夜は低温が続くでしょう。幸運にも大気が残っていたとしても、風は昼の側から夜の側にかけて吹くようになり、海が残っていたとしても海流は大きく変わるため、地上の気候は今とはまったく違うものになるでしょう。

でも、もし大気や海が残っていたとしたら、そこには微生物がしぶとく生き延びている可能性はあると思います。長い時間をかけて、新しい地球の環境に適応した生物が進化してくるかもしれません。生物の進化をあるところからやり直したら、どんな世界になるのでしょう。

地球の自転が急停止するというのは荒唐無稽な仮定ですが、物理や化学や生物の知識を総動員して何が起きるか空想するというのは、もしかしたら楽しい頭の体操になるかもしれません。