退職する際のストレスを減らしたいという需要

このうち、③に対するニーズがあることは想像に難くない。勤め先を辞める、という行為に伴う法的な要件を遵守するためには、正確な知識や手続きが必要になる。特にブラック企業と呼ばれるような勤務先では、あやふやな法律論をかざしてなかなか辞めさせてくれない、などのトラブルも耳にする。

この場合、退職代行サービスはもはや、法律相談所に近いかもしれない。ただ、やはりニーズという意味では、圧倒的に②だ。退職のプロセスは、どんなときでも、誰であっても、一定のストレスがかかる。勤め先を訴えるなどの場合を除き、なるべく円満に退職したいと願うのが普通だ。特に、関係者へ知らせる過程はナイーブで、気を使う。何より、どんなリアクションがあるのかを想像すると、ちょっとくらいお金を払っても誰かにお願いしたい、という気持ちが若者の間で広がっている。

現在の若者の立場からすれば、そのストレス・コストが年々高まっていることになる。そのコストが、退職代行サービスに支払うコストを凌駕りょうがするがゆえに、退職代行サービスが人気を集める構図になる。

その場で要望を伝えるのには抵抗がある

今の若者は、外的な要因による自身の感情のアップダウンをとても嫌う傾向にある。

そんな気質を持つ若者にとって、「辞めたいって言ったら、すごい引き止めにあうらしいよ」なんて噂が耳に入った時点で、もうストレスはマックスだ。決して自分からは言い出せなくなってしまう。逆になぜか赤の他人を挟むと、簡単に言えてしまうのも今の若者の特徴だ。

例えば、かつて僕自身にもこんなことがあった。コロナ禍が到来して間もないころ、多くの大学はオンライン対応に追われた。僕も手探りで授業をオンライン提供していたので、受講生である学生たちに向けて、「何か不備があればいつでも知らせて」、「チャットに書き込んでもらってもいいよ」と、いつもながらの神対応を見せていた(自画自賛です)。

結果、ほとんど不備や要望が伝えられることはなく、「さすが金間先生。優勝!」と、内心思っていた(自信過剰です)。ただそのあと、大学の事務局が全学生に向けてオンライン授業に対するアンケート調査を行ったところ、ちゃんと僕の授業に対しても(不備というほどではないものの)こうしてほしい、ああしてほしい、と書かれているではないか(自業自得です)。これはちょっとショックだった。

割と気楽に仕事をしている僕でさえショックを感じるのだ。企業にお勤めの上司や先輩の皆さんが、退職という事象を前にしたショックは計り知れない。

写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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