退職代行サービスを利用する人が増えている。産業医の吉田健一さんは「退職代行業者と提携して、メンタル不調による退職を口添えするために診断書を出すメンタルクリニックが存在している可能性がある」という――。
退職願
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大企業の約2割が「代行退職」を経験

新年度が始まって3カ月が経過しました。新しい環境に慣れるために、精神的な疲労が溜まっている人も多い時期です。ここに来て、新聞やTVで「退職代行サービス」が何度も取り上げられていることが気になっています。

東京商工リサーチのアンケート調査(2024年6月3~10日実施、5149社が回答)によると、退職代行業者を活用した社員の退職を経験した企業は9.3%に上り、大企業に限定すると18.4%にもなるそうです。

私も産業医先で、会社の人事担当者から「退職代行サービスを使って退職の連絡をしてきた社員がいる」という相談を受けたことがあります。産業医としては、そのような業者が間に入ってしまってはなすすべがありませんので、関係者全員が釈然としないながらも会社側は粛々と手続きを進め、当該社員さんは退職しました。

反対に、メンタルクリニックの院長としての立場で、退職代行業者から「提携しませんか」という営業を過去に受けたこともあります。医師が退職代行業者と提携するということは、そのような業者を使って退職したい方に、裏付けるような診断書を発行する、ということになります。もちろん、私はお断りしました。

人間関係と同じく、会社を「シャットアウト」

数年前までは、退職代行サービスというと「怪しい」という印象を持たれがちでしたが、ここ数年で一般化したのか、市民権を得てきたように感じます。なぜ、ここまで退職代行サービスが広まったのでしょうか。

理由の一つとして、SNSのブロックと同じように、人間関係をボタンひとつで「シャットアウト」してしまうことに対して、ハードルが下がっていることが挙げられるのではないでしょうか。

さらに、人手不足の売り手市場で「ここを退職しても、次が見つかるだろう」と楽観的に考えられている点や、インターネットやSNSで簡単に他社の情報が手に入るので、「今の会社よりもっといいところがあるかも」と、違和感を覚えたらすぐ転職を考える、という意識の変化も影響していると思います。

もちろん、従業員の方が精神的に追い詰められているケースや、パワハラなど重大な問題があって思うように退職できない場合は、このような業者が間に入ることで、従業員の方の苦痛を減らす可能性もあり、一概に批判されるべきものでもないのですが……。