アメリカは「個人の強み」を活かしている
筆者は、世論調査やコンサルティングで知られる米ギャラップ社の「上級ストレングスコーチ講座」に米国シカゴで参加したことがある。5日間のプログラムで、アメリカの国際競争力は“個人の強み”を活かすことに起因していると知って驚いた。日本とは根本的に考え方が違ったからだ。
ギャラップ社は、国連が毎年発表する「世界幸福度報告」の調査データも提供している。調査の基礎にあるのは、同社が提供する強み診断テスト「ストレングス・ファインダー(クリフトンストレングス)」や「社員エンゲージメント」のフレームワークだ。強み(ストレングス)を活かすことは、熱意や貢献意欲(エンゲージメント)を高める最重要項目であり、社員の幸福度(ウェルビーイング)にも大きく影響する。
同社における「ストレングス」「エンゲージメント」「ウェルビーイング」の関係について、筆者が分析したのが図表2である。
ギャラップ社が提供する「エンゲージメント・サーベイ」は、わずか12個の質問(Q12)で社員のエンゲージメントを測定する。例えば、以下のような質問だ。
Q2:仕事をうまく行うために必要な材料や道具を与えられている
Q3:職場で最も得意なことをする機会を毎日与えられている
このような質問に対して、自分が当てはまるかどうかを5段階で答えることで、社員1人ひとりのエンゲージメントが診断される。
「Q12」については、過去の記事で詳しく紹介しているので参照してほしい。
日米で「大きな差」がつく当然の理由
「たった12個の質問で、エンゲージメントが本当にわかるのか?」と疑う人もいるだろう。なぜなら、日本企業で実施するエンゲージメント調査は、質問が50個以上あることが珍しくない。なかには100個以上の質問を社員に尋ねる調査もある。
だが、ギャラップ社の質問がたった12個であることには意味がある。日米の企業で、マネジメントの発想に重要な違いがあることを示す好例といってよい。
日本企業では何か施策を考えるときに、「あれもこれも」と範囲を広げ、総花的になることが多い。経営戦略でも、とにかく網羅的に有力な事業をリストアップしようと努める。会社のリソースが100あるなら、20個の施策に5つずつばら撒くような経営計画になりがちだ。
一方、アメリカ企業は「選択と集中」が基本だから、100のリソースを3個の施策に集中投下しようと、対象の絞り込みにエネルギーを費やす。日米でリターンに大きな差がつくのは当然だろう。
日米の違いは、エンゲージメント調査にも表れる。ギャラップ社は、本質からズレた余計な質問は設けない。エンゲージメントの中核は“個人の強み”にあると、ターゲットを絞り込んでいるところに価値がある。
エンゲージメント・サーベイの精度が高いことは、同社のデータベースで証明されている。例えば、「Q12」で最もエンゲージメントが高いと診断されたチームは、最も低いチームよりも離職率が43%低く、品質上の欠陥も41%低いというデータがある。