勝ち負けの争いから発展した「確率論」
3つの扉の話を進める前に、確率論の歴史について少しお話しましょう。
確率論は、まだ見ぬ未来に何が起きうるのかを考え、それをもとに今どうすればよいかを探る、数学の一分野です。
数学の多くの分野、例えば幾何学や数論といった分野は、その起源を数千年前にみることができますが、いつどうやって始まったのか正確にわからないほどです。
ところが、現代へと続く確率論の始まりは、はっきりとわかっています。それは、1654年にフランスで始まった、ブレーズ・パスカルとピエール・ド・フェルマーの2人の手紙のやり取りだとされています。パスカルは「人間は考える葦である」などの格言を残した偉人、フェルマーはあの「フェルマーの最終定理」で有名な数学者です。
パスカルが次の問題(図表5)についてフェルマーに相談することから手紙が始まります。
この問題を、仮に、AさんとBさんの2人がコインの表裏を当てるゲームをしていたとしましょう。コインが表ならAさんの勝ちで、裏ならBさんの勝ちというゲームです。
いま、Aさんが2勝1敗になったとすると、例えばこんな感じになります(図表6)。
ここでゲームを中断し、掛け金を公平に分配したいわけです。
勝利に近いのはAさんですが、だからといってAさんに掛け金をすべてあげるわけにはいきませんよね。Bさんが逆転勝ちする可能性だってあるからです。
そこで、パスカルとフェルマーは、この勝負が続いたとして、どちらがどのくらい勝つ可能性が高いかを割り出し、それに従って分配しようと考えたのです。
すると次のようになります(図表7)。
つまり、掛け金の4分の3をAさんに、4分の1をBさんに分配すればよいというのが、パスカルとフェルマーの結論でした。