数学史上最大のミステリーと呼ばれた「フェルマーの最終定理」はどのようにして証明したのか。パンサー尾形貴弘が難解な数学の世界を大真面目に解説するNHKの知的エンターテインメント番組「笑わない数学」の放送内容を再構成した書籍より、一部を紹介する――。

※本稿は、NHK「笑わない数学」制作班編『笑わない数学』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

証明まで350年かかった「フェルマーの最終定理」

「フェルマーの最終定理」とは、フランスの数学者ピエール・ド・フェルマーが残した数学史上最大のミステリーとも呼ばれた難問です。

なぜミステリーと呼ばれたのか?

実はフェルマーはこの問題を自ら証明したと書き記しているのですが、どこを探してもその証明が見つからなかったからなのです。

その後、数々の数学者がフェルマーの最終定理の証明に挑んでは敗れ去り、結局350年経って、ようやく証明にたどり着いたという難問なのです。

この難問、問題自体を理解するのは意外と簡単です。まずは次の問題を考えてみてください(図表1)。

この問題は中学校で習うかと思います。例えば、x=3、y=4、z=5であればこの式を満たしますよね。

他にもこの式を満たす自然数x、y、zの組はたくさんあります。x=5、y=12、z=13とか、x=8、y=15、z=17とか、x=7、y=24、z=25などなど。

それでは、もし、ここで「指数」(文字の肩の数)が2ではなく3だったらどうでしょうか?

【図表2】x3+y3=z3を満たすx、y、zの組は存在するか?
出所=『笑わない数学

1から9を3乗した数を表にしてみましたので、この表を参考に、この式を満たす自然数x、y、zの組を探してみてください(図表3)。

【図表3】1から9を3乗した数
出所=『笑わない数学

どうでしょうか? 自然数x、y、zの組は見つかりましたか? 絶対に見つからないと思います(見つかったという方は、ご自身の計算ミスを疑ってください)。

そろそろ皆さんもわかってきたのではないでしょうか? 「フェルマーの最終定理」とは次のような問題です(図表4)。

【図表4】フェルマーの最終定理
出所=『笑わない数学

つまり、指数nが3でも4でも100でも1000でも10000でも、この式を満たす自然数x、y、zは絶対に無いということなのです。

「真に驚くべき証明を発見したが余白が狭すぎる」

フェルマーは1607年にフランスの田舎町で生まれました。

この頃は、ヨハネス・ケプラー、ガリレオ・ガリレイ、アイザック・ニュートンという科学者が活躍し、ヨーロッパを中心に近代的な科学が発展した時代でした。

その中でもフェルマーは、確率論や幾何学など当時最先端の研究を行い、数学界をリードする存在でした。

そんなフェルマーが30歳のころ、持っていた本の余白にメモを書き残します。このメモを現代風に書き直したものが、先ほどお見せした「フェルマーの最終定理」です。

ところがフェルマーは続けて次のようにメモを書き足しました(図表5)。

【図表5】私は真に驚くべき証明を見つけたがこの余白はそれを書くには狭すぎる
出所=『笑わない数学

(フェルマーが書き込んだ原本は失われているため、この画像はイメージ図です)

その後、フェルマーは証明をどこにも残さないまま、この世を去ってしまったのです。

これがその後350年に渡って、数学者たちを悩ませ続けることになるフェルマーの最終定理の誕生でした。