これは脚本の勝利といえる作品

3位 理不尽&辛酸の第一部、愛と犠牲の第二部、お家継承の第三部、ずっと熱中

「おんな城主 直虎」(2017年) 210点

諸説ある人物・井伊直虎が主役でしかも尼。ヒロイン大河の多くが苦戦する中、柴咲コウが演じた直虎(おとわ)は記憶に残る名演だった。ほぼ頭巾姿の単純美にキャラクターとしての芯の強さ、なんつっても読経が美声で聞き惚れた。女を捨て、愛する人を失い、井伊家と井伊谷の民を守り抜いた姿は神々しかった。

今川家に虐め倒される井伊家が妙案と奇策で耐える第一部、家臣や朋輩と結束してビジネスモードで井伊谷を盛り上げるも、新たな覇権争いに巻き込まれる第二部、そして直系嫡男の奮闘を描く第三部。

タイトルは名作・名画・話題作のタイトルをもじった制作陣の遊び心で、物語が見事に融合。井伊家を支え続けたトリッキー侍女のうめ・たけ・まつ(梅沢昌代が三役)に、「つづく」の一言を多彩に表現したナレーションの中村梅雀など、細部も含めて最後まで飽きさせず。

徹底した偽悪と密かな思慕で井伊家への忠誠を貫いた小野政次(高橋一生)の最期は号泣の名場面だったし、彼の本質を誰よりも理解して支えた兄嫁のなつ(山口紗弥加)の心情描写も切なかった。

天下をとるために虎視眈々たんたんと風を読む徳川家康(阿部サダヲ)と、猛烈な負けん気で草履番から小姓へと出世し、井伊家を継承した井伊直政(菅田将暉)の蜜月も愛おしかった。

数字の上では3位だが、「恋・情・義」を茶化さずコミカルにもせず、真剣に切なく狂おしく描いた大河という意味ではナンバーワンである。森下佳子脚本の勝利。

さあ、もうおわかりでさぁね、トップのワンツーは。以前「三谷幸喜大河の魅力」も書いたし。やっぱ面白いもの。

写真=時事通信フォト
紫綬褒章の受章が決まり、記者会見する脚本家の三谷幸喜さん=2017年10月25日、東京都世田谷区

やっぱ三谷大河は面白い

2位 だまし討ちに小芝居、劇団真田の一族が繰り広げるサバイバル処世術

「真田丸」(2016年) 220点

食えない人物があの手この手で小芝居をうち、戦国の世を泳ぎ渡る。その小賢しさと痛快さ。

劇団真田の一族、団長は父・真田昌幸(草刈正雄)。その図々しさや適当さ、風を読みとる狡猾さに振り回されるのが、長男・信幸(大泉洋)と次男で主人公の信繁(堺雅人)。

兄弟が互いにおもんぱかっているのに、父・草刈の「もらえるものは病気以外もらっとけ!」という台詞が象徴したように、父ちゃんがまあ食えない。

筋金入りのほら吹きは、祖母(草笛光子)も、公家の娘と詐称していた母(高畑淳子)も同様。そんな真田家に生まれた兄弟の困惑顔が今でも目に浮かぶ。

また、劇団を支えた女優陣にも拍手喝采を。信幸の、妻から下女に降格されるも健気かつ逞しくなるおこう(長野里美)と、政略結婚で不満を抱えて真田家に嫁いできた稲(吉田羊)の最終的な連係には膝を打った。

ヒロインといえば、余計な一言で場の空気を凍らせ、信繁の尻を叩いたり背中を押したりする幼馴染・きり(長澤まさみ)ね。イラっとしつつも、最終話で思いが報われて安心した。

信長(吉田鋼太郎)は瞬殺、秀吉(小日向文世)は残虐で矮小わいしょう、コンプレックスの塊、家康(内野聖陽)はビビりの割にオスとしては自信過剰。石田三成(山本耕史)はまったく人望がないし、伊達政宗(長谷川朝晴)には田舎生まれを愚痴らせる。

武将を雄々しく描かないことで、人間臭さを濃縮還元させる一方、農民や庶民の本音を随時&適宜すくいとって、戦の馬鹿馬鹿しさや権力闘争の無意味さを言霊にのせる。そこに良心と矜持を感じるわけで。