今年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は歴代の大河ドラマとはひと味違う。ライターの吉田潮さんは「第1回のタイトルは『大いなる小競り合い』だった。それは脚本家の三谷幸喜さんが『歴史をつくっているのは権力者だけではない』というメッセージを込めているからだ」という――。
三谷幸喜
写真=時事通信フォト
三谷幸喜 劇作家(2020年1月15日、PARCO劇場お披露目&オープニング・シリーズ記者会見、東京・渋谷PARCO劇場)

「中世モノは視聴率が悪い」という呪いに挑んでいる

戦国時代と幕末ばかり描く大河ドラマ。みんな大好きだもんねぇ。中世や近現代を描いた『平清盛』(2012年)、『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019年)、『青天を衝け』(2021年)などもあったが、主要人物と背景になじみがないせいか、数字も微妙だった。(期間平均の世帯視聴率はそれぞれ12.0%、8.2%、14.1%。ビデオリサーチ調べ、関東地区)

中世に関してはきっと崇徳院の呪いだろうし、近現代は教育が足りなかったせいだと思っている。今はわからないが、私の時代は小・中学校で近現代まで授業で進んだ記憶がない。高校は高校で、教員の好みに偏った授業だったし。結局、なじみがあってロマンと熱をもって語られるのが、戦国と幕末というのも仕方がない。

余談はさておき、件の呪いのかかった中世に挑んでいるのが「鎌倉殿の13人」。脚本は三谷幸喜。三谷大河は『新選組!』(2004年)、『真田丸』(2016年)に続いて3作目だ。独特の三谷節が苦手な人もいると聞くが、私は大好物。何がそんなに私の心をとらえるのか、まとめてみた。

主人公も悪役もかっこつけさせてもらえない

その昔、大河の醍醐味だいごみは勇猛果敢な名武将にあった気がするし、ナントカの合戦とかホニャララの戦いとか、歴史的大戦を荘厳そうごんに描くのが特長のひとつだったと思う。当然、武士や侍、時の権力者は勇ましく、あるいは清く描かれてきた。

三谷大河では、主人公だろうが悪役だろうが、かっこつけさせてもらえない。

『新選組!』では蛮行が過ぎた芹沢鴨(佐藤浩市)が新選組の粛清対象になって、暗殺されるシーン。潔く死を覚悟し、白装束で迎えたものの、なんと布団の上に転がっていた瓢箪ひょうたんに足をとられて、沖田総司(藤原竜也)に刺される。いや、瓢箪って‼ 横暴で酒飲みで女好きだが、剣の達人で武士たちを率いるだけの度量がある人物を、瓢箪ですべらせる滑稽さ。ものすごく意地が悪いのよ。

『真田丸』では、徳川家康(内野聖陽)がおねしょしたり、小便を漏らしたり、爪を噛む癖があったり、と武将の威厳を奪われまくり。石田三成(山本耕史)も、戦は下手だわ、肝心なときに腹くだすわ、人望まったくないわで、いいとこなし。