被虐待児は待っていてもSOSを発しない

では、どうすればいいのでしょうか?

彼らに必要なのは、SOSの出し方を身につけることではありません。

理解してくれる大人が身近にいることです。

先に紹介したOnaraの調査結果を思い出してください。「虐待を受けていた当時、他者への相談後、状況に変化はありましたか?」との問いに対しての返答を――。SOSを発したところで、児童虐待がどういうものなのかを理解できる人が身近にいなければ、何の意味もなさないのです。子どもが希死念慮を抱くということが、どういうことなのかを私たちは知る必要があるのです。

児童虐待と自殺の関係は密接です。彼らの多くが希死念慮を抱いたことがあると聞いても、もう驚かないのではないでしょうか。

しかし、彼らはそのサインを出しません。人を恐れ、信じることなどできないから、人に対して援助希求行動など出さないのです。だから、授業中の様子などから睡眠状況を客観的に評価することは重要です。

植原亮太『ルポ 虐待サバイバー』(集英社新書)

繰り返しますが、ただ待っているだけでは彼らは助けを求めに来ません。

その心の傷に気づいてやる必要があるのです。

彼らの苦しみが見えてくるようになると「生きていたらいいことあるよ」と安易な助言はできなくなるはずです。こうして真摯しんしに向き合って初めて、本当の自殺予防になるのかもしれません。

子どもの自殺の動機の約半分が「不明」である事実に、私たちはもっと目を向けるべきではないでしょうか。

※本稿の執筆に際して、あさくさばしファミリーカウンセリングルーム室長の野口洋一先生にご協力をいただきました。この場を借りて、お礼申し上げます。

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