朝早くに登校して机で寝ている子供

冒頭の女子生徒も「眠れないし、起きれない」と話していました。0時にはベッドに入るけれど、そこから眠れず、うつらうつら時間が流れていって、気がつくと5時。ここまでくるともう眠りにつけないのはわかっているのだけれど、学校へ行くのが億劫おっくうだからベッドからも出られない、時間になって重い体をようやっと起こして登校するとの趣旨です。

まるで「大人の」うつ病のようです。小児うつと呼ばれるようなものの中には、彼女のような被虐待児が含まれていることも少なくないのでしょう。

ある子どもは、朝の7時半には登校して教室の隅にある自席で過ごしていました。顔を伏せて眠っているようです。当初は「遅刻しない子」と思っている教員も少なくなかったのですが、なぜいつもこんなに早く登校するのかを聞くと「家では眠れない」「家にいたくないから早く来るようにしている」と話します。過去にあった性的虐待が、今でも続いていたことが発覚しました。布団の中に「入ってこられる」と話しました。

またある子は、授業中はいつも眠っていました。授業中の態度が悪いと教員から叱られることもしばしばです。しかし、あまりにも眠そうなのを不思議に思って家庭での様子を聞くと、生まれたばかりの妹がいて、その世話をしなければならないと話します。親は寝ていて起きてこないから「妹を抱っこしている」とのことです。

一人で机に伏せている子
写真=iStock.com/DGLimages
※写真はイメージです

「居眠り」を「怠惰」で済ませてはいけない

1クラス30人のうち3人前後は、こうした「虐待サバイバー」がいるはずです。クラスの中には、「怠惰」だと決めつけるわけにはいかない背景がある児童・生徒が意外にも少なくないのです。

児童虐待に詳しい高橋和巳医師は著書『消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ』(ちくま文庫)の中で、幼少期からの不眠と虐待の関係を述べています。また、不眠と自殺の関連は、ノルウェー科学技術大学公衆衛生・総合診療部門のJohan Håkon Bjørngaard氏らによる論文で「不眠症状が『全くない』と答えた人に比べ『ほぼ毎晩』と訴えた人の自殺リスクは4.3倍に上る」と発表されました。

児童虐待によって負うことがある心の傷である心的外傷後ストレス症(PTSD)も、自殺リスクを増大させることが知られています。

Jordana L. Sommer氏らは「ターゲットを絞った介入が役立つ可能性がある」と述べています。もともとは解離症などを有する患者の自殺率の高さに着目した研究の中で述べられたものでしたが、この考えは子どもの自殺予防にも通用すると私は思っています。

つまり、ターゲットを絞らずに漫然とSOSの出し方を子どもに教えているだけでは、対策としては非効率的なのです。