苦しい時でも助けを求められない

どんな人でも自己主張するのは場面によって遠慮が伴うものなのですが、虐待を受けてきた人は、これがひどく強力です。重症になると、子どもの頃に「反応性アタッチメント症/脱抑制型対人交流症」などの、いわゆる愛着障害を負い、これが原因で大人になってからも、うつ病やパニック症を併発することがあります。

反応性アタッチメント症の診断基準に、彼らの心の傷の深さが象徴されています。『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』(アメリカ精神医学会)より抜粋して、以下に示します。

「苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽を求めない」
「苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽に反応しない」

これは、「苦しいときでも助けを求めない、受け取らない」と言い換えることができます。

被虐待児の91%が「自殺を考えたことがある」

心の傷が如実に表れた調査結果があります。一般社団法人Onaraが2023年11月に公表した「社会的養護未経験児童虐待被害者の実態調査アンケート」で、児童虐待を生き延びて大人になった人が回答したものです。そこにはショッキングな数字が並びます。いくつか抽出して紹介します。

【虐待を受けていた当時、自ら助けを求めたことはありますか?:ない=68.1%】
【虐待を受けていた当時、他者への相談後、状況に変化はありましたか?:状況が悪化した=39%、何も変わらない=63.3%】
【希死念慮はありますか(又は、ありましたか)?:ある=91.6%】
【自殺を考えたことはありますか?:ある=91.1%】
【自殺への願望を実行に移したことはありますか?:ある=61.3%】

以上を考慮すると現行の自殺予防が、児童虐待を経験した子どもたちの実態にフィットしないのではないかとも思えてきます。その理由を述べていきます。