実家に帰ることが憂鬱に感じる「帰省ブルー」に陥る人はどのような人なのか。公認心理師の植原亮太さんは「嫌なら帰省をやめればいいのに、それでも帰省してしまう人たちは、親に対して無意識に『頑張ってしまう』人が多い」という――。

※本稿で登場する事例は、プライバシーの観点から一部加工・修正しています。

スーツケースを引きずりながら新幹線を歩く人たち
写真=iStock.com/shih-wei
※写真はイメージです

年末にかけて増える「帰省」の相談

筆者が営んでいるカウンセリングルームには、年末が近づくにつれ、クライアントさんから実家や義実家への帰省についての話題が多く出るようになります。

ほとんどの人にとって年末年始に帰省して親の顔を見て過ごすことは当たり前で、嫌なことではないはずです。しかし家族問題を抱えている人ほど、帰省そのものが憂うつな出来事であるのがわかります。その背景には何があるのかを、本稿ではカウンセラーの視点から考えていきます。

【Close-up】帰省、介護、相続…「実家のドロドロ」回避テクはこちら
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家族問題の苦しみを考えるときに、例外的な事象を取り上げることは示唆に富む知見を私たちに与えてくれます。そこで、今回はゴミ屋敷で育ってきた女性とその母親との問題を取り上げていきます。

なぜ、わざわざこれを取り上げるのかというと、この世の中は「普通」の家族を前提に構成されており、世間にはそうした家族で育った圧倒的大多数の声しか広がっていないことを知ってもらうためです[詳しくは拙著『ルポ 虐待サバイバー』(集英社新書)を参考]。

ここで言う「普通」とは、親子の間で豊かな感情表現があり、双方向の交流ができている関係を言います。嫌なときには嫌だと言えること、嬉しいときには互いに喜び合えること、困った時などには相談し合える関係です。彼らにとっては、年末年始に親元に帰省するのは憂うつでもなんでもなく、むしろ嬉しいことでさえあるのです。だからこそこの社会の中では、ほとんどの人はこぞって帰省という同じ行動をとるのでしょう。

「自分の人生を生きている気がしない」という心の悩み

木崎栄子さん(仮名・45歳)の最初の相談での訴えは「自分の人生のはずなのに、自分の人生を生きている気がしない」という不思議なものでした。なぜこんな感覚になるのかを知るきっかけが、年末年始の帰省だったのです。

カウンセリングが始まって、ちょうど1年が経とうとしていた12月のことです。慢性的に抱えていた不眠と抑うつが軽くなってきたころ、思い出したように彼女は次のようなことを話し始めました。