中国勢は日本車メーカーの“得意先”も狙っている
今後、主要先進国の新車販売市場で、EVシフトはさらに加速するだろう。欧米諸国は自国の企業を最優先にしつつ、友好国の企業に直接投資を呼び掛けてEVサプライチェーンを強化すると予想される。影響は自動車だけでなく、洋上風力(エネルギー)などにも及ぶ。
新興国でのEVの位置づけも急速に変化している。アジア新興国では、EV普及策を強化して工業化、産業育成を促進しようとする国が急増している。“アジアのデトロイト”と呼ばれ、わが国の自動車メーカーが高いシェアを誇ったタイなどで、中国EVメーカーなどの進出は急増した。
「エンジン車からEVへ」、わが国が経験したことのない世界の自動車業界の変化は勢いづく。問われるのは、その変化にわが国の自動車産業が対応できるか否かだ。大手自動車メーカー、サプライヤーの総力を結集し、中国勢や専業メーカーに負けないEVを作ることは喫緊の課題である。
ハイブリッド車の成功をEV戦略に生かせるか
わが国の自動車メーカーは依然としてエンジン車、HV、PHEV、EV、さらには燃料電池車(FCV)をカバーする全方位型の事業戦略をとっている。わが国の自動車メーカーには、多くの部品を精緻にすり合わせ、安全で高耐久の自動車を作る製造技術へのこだわりは強い。EVに集中するBYDやテスラなどと、事業戦略の差は明らかだ。
過去数年間のEVシフトの急加速を見る限り、わが国の自動車産業の対応は遅れた。ダイハツなどで認証申請時の不正行為も発覚した。日本製の自動車に対する世界の消費者の不安が高まれば、EVシフトへの対応は難しくなるかもしれない。
1990年初頭にバブルが崩壊して以降、わが国経済のかなりの部分は自動車産業の成長に支えられた。特に、ハイブリッド車の成功は大きかった。2024年、世界経済の成長率はいくぶんか低下する恐れが高い。その中でわが国の自動車産業が、先進国を中心に優秀なEVを供給できるか否か、わが国経済の今後の展開に重要な影響を与えることは間違いない。