欧州に拠点を広げる中国勢をEUは警戒
高い成長の実現に向け、中国のEV及びバッテリーメーカーは海外進出を強化した。2023年12月、BYDはハンガリー南部のセゲド市に工場を建設すると発表した。2024年、タイでBYDはEV生産を開始する予定だ。2024年後半、ブラジルでもBYDはEVやバッテリーの生産を予定している。
CATLも、欧州やアジアなどで直接投資を積み増した。テスラ、メルセデス・ベンツ、ボルボなどが同社からバッテリーを調達する。2023年、車載用バッテリー市場でも、中国企業と日韓メーカーのシェアの差が拡大した可能性は高い。
それに対し欧州委員会は警戒を強めはじめた。2023年10月、欧州委員会は中国から輸入されるEVを対象に、制裁関税の賦課を視野に入れた反補助金調査を開始した。12月、フランス政府は、中国で生産するテスラの“モデル3”などアジア製のEVを販売補助金の対象外とした。補助金への懸念に加え、輸送距離が長く脱炭素に反するとの見解だ。
米大統領選前に「EV貿易戦争」が勃発する?
イタリアも同様の措置を検討している。欧州各国は中国などで生産されEVを締め出すことを目論んでいるようだ。域内や経済安全保障上重要な関係を持つ国のEVメーカーに補助金などを支給し、サプライチェーンの強化に取り組むことになるだろう。
米国は、中国産の鉱物や部材を用いて生産したEVを税優遇策の対象外とする。2024年からバッテリー部品、2025年からはニッケルやリチウムなどのレアメタルへ基準は引き上げられる。
米国企業の事業戦略にも影響が出ている。ミシガン州でフォードは、CATLと合弁でリン酸鉄系のバッテリー工場建設を予定していた。しかし、中国企業による対米直接投資が経済安全保障上のリスクを高めるとの懸念により、計画を4割縮小せざるを得なくなった。
2026年にフォードは工場の稼働を目指すが、当初よりも雇用創出の効果は小さくなる。大統領選挙が近づく中、バイデン政権はエンジン車の生産工場をEV向けに転換するため助成策を拡充するという。EV、バッテリー、関連部材などの“脱中国”を強化することになりそうだ。11月の大統領選挙を控え、EV分野で貿易戦争が勃発する恐れもある。