インドへの資本逃避を食い止める狙いか

近年、米アップルや韓国サムスン電子など世界の主要な企業は、中国からインドなどへ生産拠点などを移してきた。ここへきてその傾向が一段と鮮明化しており、インドネシア、タイ、ベトナムなどへ拠点を移すケースが目立っている。

その背景には、中国経済の回復が遅れていることに加えて、台湾問題の緊迫感への注目度が上がっていることもある。また、半導体など先端分野での米中対立はさらに先鋭化しそうだ。

10月下旬、電子製品の受託生産世界最大手、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下、フォックスコンの関連会社に対して中国当局は税務調査に入った。このタイミングでの調査の実施は、一種の衝撃をもって受け止められた。一部の専門家の間では、「インドへの資本逃避を食い止めるための一種の圧力」とみる向きもあるようだ。

2022年9月、アップルが“iPhone14”の生産をインドで行うと発表し、ホンハイ・フォックスコンも追随した。その後、中国からインドへ、世界の有力企業による“ヒト、モノ、カネ”の再配分は勢いづき、中印間の景況感、株価の強弱の差も拡大した。そうした変化に習政権は危機感を高めている部分もあるのだろう。

ムンバイの夜景
写真=iStock.com/Sanjog Mhatre
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コロナ政策で明らかになった中国リスク

今から5年ほど前、米アップルがインドでのiPhoneなどの生産体制を整備しているとの観測が出た。当時、半導体などの先端分野で、米国は中国に対する制裁や輸出管理体制を強化しつつあった。それ以降、半導体の禁輸措置などは一段と強化された。

そうした米国の措置によって、iPhoneなどの製造を受け持った、ホンハイの中国子会社フォックスコンの供給体制は不安定化した。グローバル化の加速とともに強化されたサプライチェーンが分断され始めた。

新型コロナウイルスの感染、その再拡大の長期化、中国のゼロコロナ政策は、アップルやホンハイの事業運営をより強く圧迫した。半導体、電子部品、物流などの供給制約は一時深刻化し、中国の都市封鎖によって生産も不安定化した。アップルやホンハイは中国の政策リスクの高さを改めて認識しただろう。

また、生産年齢人口の減少によって中国の労働コストも上昇した。不動産バブル崩壊により、中国経済の減速懸念も高まった。2020年8月、共産党政権は不動産向け融資を絞るために“3つのレッドライン”と呼ばれる融資規制を実施した。それにより不動産価格は急落し、不動産バブルは崩壊した。