「置き配」に対するポジティブな論調を創出する

アマゾンのミッションは、「地球上で最もお客様を大切にする企業、そして地球上で最高の雇用主となり、地球上で最も安全な職場を提供すること」であるが、インターネットショッピングの場合には、お客様の満足度を高める三つの柱として、品揃え、価格、利便性がある。これらがビジネス上の重要なインプットである。その対局にあるのが、ビジネス上のアウトプットである売上高や利益になる。品揃え、価格、利便性については、社員がフォーカスすれば必ず改善する、つまりコントロールできるのである。しかし、売上高や利益というのはあくまでも結果であって、直接コントロールできるものではない。

従って、インプットにフォーカスすることが「Deliver Results」で奨励されている訳であるが、置き配という配達方法の選択肢を増やすことは、利便性を高めることに他ならず、インプットにフォーカスした課題なのである。

アマゾンのリーダーシップ・プリンシプルが私の背中を押し、置き配についてロビイングのアクションを取ろうと決断させた。具体的なアクションとしては、置き配だけに焦点を当てた政府による会合を立ち上げてもらい、メディアの耳目も集め、その会合から物流政策上、省エネルギー政策上の観点からも、置き配が非常に有効な受取方法であるとの結論を出してもらい、政府発信の情報をメディアに乗せることで置き配に対するポジティブな論調を世の中に創出しようと考えた。

写真=iStock.com/metamorworks
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アマゾンの置き配が事例として紹介されるようにレールを敷いた

早速、経済産業省商務・サービスグループの物流企画室(当時)と国土交通省総合政策局物流政策課を訪問し、置き配に関して今両省が連携して取りあげる必要性を訴えた。これが功を奏して、2019年3月に置き配検討会が設置され、置き配の実施にあたっての課題等を整理し、関係省庁や関係業界それぞれにおいて取り得る対応策等の検討が行われることになった。

私もこの検討会の委員になった。第1回の会合では、検討会の冒頭でメディアの取材も入り、予想どおり、新聞やテレビでは、置き配をポジティブに捉えた上で取り上げる報道が多くみられた。第1回の置き配検討会では、併せて、置き配実施企業による取組事例もとりまとめ、検討結果と合わせて広く周知し、関係業界や消費者の意識醸成に繋げていくことも決定された。つまり、この置き配検討会と同時並行して、アマゾンがお客様に安心してご利用いただけるような形で置き配を進めていければ、政府がその取組を事例として紹介までしてくれるという算段である。

ここまでのレールを敷くことができれば、もうほぼ仕事は終わりである。この検討会が開催されている最中に、アマゾンからは置き配指定サービスの対象エリアを拡大することをプレスリリースし、その中で、アマゾンが置き配検討会に参加し、自社だけでなくラストワンマイルに関わる物流業界全体が、新しい配送のあり方を検討・推進できるように協力しているという姿勢も見せることができた。