インテルの顧客だったアップルがライバルに
現在の世界の半導体業界の動きは、生き馬の目を抜くほど激しい。これまで半導体産業では、チップの設計、製造、需要が明確に分かれる分業体制になっていた。ところが、その分業体制に大きな変化が表れている。分業の棲み分けが曖昧になりつつある。
一つの象徴は米アップルだ。2020年の“M1”チップ発表から、アップルはパソコン向けCPU(中央演算装置)の設計開発を、それまでのインテルから自社に切り替えた。インテルは需要の一部を失った。
アップルが用いるCPUの設計図を提供するのは、ソフトバンクグループ傘下の英アームグループだ。M1以降、アップルは自社製品により適したチップの開発を強化した。それに基づき、TSMC(台湾積体電路製造)が回路線幅3ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)などのラインでチップを製造する。製造面でもインテルは需要を逃がした。
インテルの顧客は、設計面でライバルに変わった。かつての顧客がライバル企業に変身するのである。逆に、それまで取引がなかった企業から受託製造が舞い込む。半導体産業界での役割は大きく変化している。半導体メーカーは常に高いシェアを維持して、先端、次世代のチップ製造だけに集中すればよいとは言えなくなった。
インテルのチップでは満足できなくなっている
そうした変化に対応するために、ラピダスをはじめわが国の半導体産業は、有力な半導体関連企業とアライアンスを組み、変化に対応するため選択肢を増やす必要があるだろう。そのためには、政府の積極的な支援がより重要になる。わが国は、今回の半導体産業復活のチャンスを逃すべきではない。
足許、世界の半導体産業では、これまでのチップ需要者が設計を自前で行い、既存メーカーと競合するケースが増えている。
かなり以前のことだが、半導体の設計・製造・需要は一社完結型だった。その体制を築いた企業のひとつは米インテルだ。同社はCPUの基本的な設計図を完成した。インテルは、設計図をもとにチップを生産するラインを自前で整備し、“インテル”ブランドで世界のパソコンメーカーに供給した。データセンタ向けのチップに関しても、インテルは同様の発想で提供を目指した。
しかし、インテルのチップによって、顧客企業が想定しうる最高のパフォーマンスを実現できるとは限らない。むしろ、自社の価値観により適したチップの設計図を手に入れ、その生産を専門企業に委託したほうが、デバイスの性能向上や事業運営の効率性向上の可能性は増すこともあった。