「世界シェア99%」アームの技術を活用
スマホは、そうした発想の転換が勢いづくきっかけになった。米クアルコムなどは英アームのチップ設計図を用いて、スマホなどに用いられるチップの設計を強化した。アームはスマホ向けのチップ設計図市場で99%超のシェアを手に入れた。
2020年以降、アップルはパソコンのCPUである“M1”にアームの技術を用い始めた。2023年10月にアップルが発表した“M3”は、その3代目に相当する。エヌビディア、AMD、マイクロソフトなどもアームの設計図を用いて、データセンタやパソコン、ゲーミング、画像処理半導体(GPU)などの設計力を高めた。
台湾のTSMCは、最先端の半導体を中心に、世界のチップ生産のかなりの部分を担う。韓国のサムスン電子もロジック半導体の受託製造体制を強化している。TSMCは人工知能など新しい技術の利用加速にともない、柔軟かつ迅速に新型チップの受託製造ニーズにこたえなければならない。インテルは、TSMCやサムスン電子との最先端の製造ライン構築競争にも対応しなければならなくなった。
顧客と競合し、ライバルと提携する時代
世界の半導体産業は、顧客が競合相手に、ライバルが提携相手になる時代を迎えた。つまり、既存の考え方が通用しづらい時代になったのである。米国のアップル、グーグル、アマゾン、中国のテンセントやアリババ、ファーウェイなどのIT先端企業は、自前で半導体の設計・開発体制を強化している。その勢いが強まったとしても、弱まることは考えづらい。
世界経済のデジタル化によって、データセンタなどの電力消費量は基本的に増えるだろう。電力消費を抑えつつ、データの保存や演算処理能力を高めるためには、自社の仕様にあったチップ開発力の強化は避けて通れない。
人工知能の利用によって、GPUの性能向上も企業の生産性により大きく影響する。今のところ、人工知能利用の有力なインターフェイスの一つに位置づけられるのはスマホであり、アームのソフトウェアへの需要も増えるだろう。
それに従い、インテルはこれまでの事業構造を抜本的に見直した。同社は、アームやTSMCとの協業を強化して、半導体産業の仕組み(構造)の変化に対応せざるを得なくなった。2023年9月にソフトバンクグループが実施したアームのIPOにインテルは参加した。インテルはチップの設計技術面でアームと提携し、互換性を持たせる方針だ。