たいていの大人は表向きではいいことしか言わない

実力のない人ほど自信が高くなる理由は他にもある。たいていの人は相手に気を遣うので、面と向かって否定的なフィードバックを与えることはあまりない(実際は、能力のなさを指摘してもらったほうが向上のきっかけになる)。

トマス・チャモロ=プリミュージク『「自信がない」という価値』(河出書房新社)

その代わり、まるで能力があるかのようにお世辞を言い、その結果、相手の勘違いはますます大きくなる。大人はよく子供に向かって、いいことが言えないなら黙ってなさいと言うが、たいていの大人は普段の生活でそれを実践し、表向きはいいことしか言わないことが多い。

私たちが普段の生活でいかに社交辞令に縛られているかは、「アメリカン・アイドル」などの素人オーディション番組を見るとよくわかる(※)。そういった番組では、たいてい実力のない出場者ほど自信満々だ。まるでプロのように堂々と登場しても、実際のパフォーマンスはお粗末ということはよくある。特に早いラウンドではその傾向が顕著だ。

※2006年5月24日、番組の投票に参加した視聴者は6300万人にのぼった。この数字は、アメリカ史上もっとも票を集めた大統領(1984年の選挙でのロナルド・レーガン〈訳注:原書発刊当時〉)よりもほぼ1000万票も多い。

リアリティ番組では自信過剰な人が現実を突きつけられる

そして、「アメリカン・アイドル」の面白さも実はそこにある。あまりにもお粗末な人が出てくると、どう頑張っても褒めようがない。どんなに優しいジャッジでも、ごめんなさいと言いながらやはり酷評するのだ。

リアリティ番組がこんなに人気があるのは、現実の世界では言えないようなことをはっきり言ってくれるからでもあるだろう。実力もないのに自信過剰な人が、厳しい現実を突きつけられる――普段の生活ではめったに見られないことだ。

一方で現実の世界では、褒められる資格のない人を、せっせと褒めなければならない。その結果、褒められた人はさらに自信が大きくなるが、実力は低いままだ。ちなみに、同じようなオーディション番組の「ザ・ヴォイス」では、ジャッジがみな礼儀正しく、ヘタな出場者に対しても現実世界と同じでお世辞しか言わない。だからこちらは視聴率が振るわないのだろう。

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