自信がなくなると自分に欠けているものに気づける

私は、学生が必ず読むべきものをきちんと確認し、授業の準備を念入りに行うようになった。私の自信のレベルは、教えはじめたばかりのころが最高潮で、その後はそこまで回復することはなかったが、学生からの評価は前よりもずっと高くなった。私の教える能力が向上したからだ。

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ここで私が言いたいのは、自信の高さは、成長を妨げる呪いにもなるということだ。自分のパフォーマンスに完全に満足していると、否定的なフィードバックを無視し、自分に都合のいいように現実をゆがめる。

それと同じ意味で、自信が低いのはむしろありがたいことだ。自信がないおかげで、自分に欠けているものを知り、欠点克服のために努力することができる。つまり、自信があるときは、たいてい実力はないということだ。それでも、他者からの評価に気づくことができれば、自分をもっとよく知ることができ、自信のレベルも現実に即してくる。

心理学の研究によると、自信が高くなるほど、否定的なフィードバックを無視するようになる。せっかく忠告してくれる人を軽く扱い、自分を褒める人ばかり高く評価する。自分の能力に自信を持っている人に向かって、「実際はそれほどでもないですよね」と言ったら、いったいどうなるだろうか。相手は冗談だと思うか、または真っ向から反論してくるはずだ。

自己評価の高い人は否定的な反応をゆがめて受け取ってしまう

楽観的で、自分を高く評価している人ほど、否定的なフィードバックを受け取ると、現実を自分に都合のいいようにゆがめる傾向がある。この現象には、「補償的自己肥大」という名前がついている。

自信が現実をゆがめるというこの現象は、実際に目で見ることができる。脳スキャンを使った研究によって、他者からのフィードバックを処理する脳の部位が明らかになったからだ。自信の高い人と低い人とでは、実際にフィードバックへの反応が異なっていたのである。

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの神経科学者、タリ・シャロット博士の研究チームもまた、現実を楽観的にゆがめる脳の部位を特定することに成功した。シャロット博士らによると、楽観的な人(現実を実際よりもポジティブに解釈する人)の脳は、ネガティブな出来事を無視する能力(または意思)が高く、問題があることを脳に知らせるシグナルが実際に出なくなるという。

砂に頭だけ突っ込んで隠れた気になっているダチョウと同じで、自信家の脳は、危険を無視することで自分を「守る」ように元からプログラムされているのだ。もちろんそれでは、最終的には自分の不利益になる。それに加えて、自信が高すぎると、人の意見を気にしなくなるので、自分を知る能力がさらに下がる。