「パリ人肉事件」も高学歴難民の犯行だった

――本書では事件を起こしてしまった高学歴難民の事例として、1981年に起きた歴史的猟奇殺人の「パリ人肉事件」を挙げています。

犯人の佐川一政が、パリ留学中にオランダ人女子留学生を殺害して屍姦しかんしたあと、遺体を食べたという事件ですね。人の肉を食べる「カニバリズム」という猟奇性にばかり世間は注目していましたが、私は佐川氏が日本の大学院で文学の修士号を取得し、パリの大学でも修士号を取得した高学歴難民であったことに、事件の重要な手掛かりがあるのではないかと考えています。

何者なのか判然としない小柄な日本人中年男性は、パリで人気を集めるどころか、差別的な対応をされることもあったでしょうし、女性に対して並々ならぬ劣等感を抱いていたとしても不思議ではありません。

――「パリ人肉事件」のように高学歴難民が攻撃的な事件を起こすケースは、よくあるのでしょうか。

これほどセンセーショナルな事例は稀だとしても、高学歴難民が抱えるコンプレックスが攻撃性に変わるケースは珍しくありません。本書でも、SNS上で交流のあった高学歴難民からネットでの脅迫を執拗しつように繰り返されたという事例を紹介しました。

被害者の男性も口論の末、「だから就職決まんないんですよ」と挑発してしまいます。無視をしているとSNSの投稿のコメント欄には「逃げるなよ」「卑怯者」といった書き込みが何十件も並び、個人のダイレクトメッセージには「俺を見下した奴は死刑!」「謝罪がなければ殺す!」と数分おきにメッセージが入って、電話までかかってくるようになるなど、攻撃は常軌を逸しています。

写真=iStock.com/mapo
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被害者男性はすぐに警察に相談に行ったそうです。携帯電話の電源を入れた瞬間に、バッテリーがすごい勢いで消耗するほどの脅迫文の多さと「殺す」「火をつけてやる」といった明らかな脅迫行為で、加害者男性はすぐに逮捕されました。

「困窮型」と「支配型」という二つの特徴

――本書では、高学歴難民による事件が「困窮型」と「支配型」の大きく二つに分類されていました。それぞれの特徴について教えてください。

端的に言うと、難民生活の長期化で疲弊した末、追い詰められて犯行に及ぶのが「困窮型」で、満たされない社会的承認欲求を、他人を支配することで満たそうとするのが「支配型」としています。