複数の修士号を取得して、残ったのは1000万円の借金
――本書では、有名大学の博士課程に進学するも中退し、現在は1000万円の借金を背負ったまま、フリーターをしている40代男性のエピソードが紹介されています。
学歴至上主義の家庭に生まれ育った方ですね。彼の父親は東大出身でありながら中学校の教員になったこともあり、出世してお金持ちになっていく人を見るたびに「たいした大学を出ていないくせに」と負け惜しみを言うような学歴偏重主義者でした。
「学歴は名前と同じ。学歴で人格まで評価される」と口癖のように言い、彼自身も父の教えを真に受けて、誰もが知るような難関有名私立大学で社会学の修士号を取得。その後は文芸評論を書きたいと考えて、今度は国立大学の大学院で修士号を取得し、そのまま博士課程に進学します。
ただ、博士課程に進学してからは研究も行き詰まり、文芸評論の応募を続けていた雑誌からも反応はないまま、30歳を迎えてしまいます。そこで、奨学金返済のために塾講師や図書館、書店、弁護士事務所でのアルバイトを経験したものの、仕事ぶりの不出来や学歴に見合わない場所で働いていることなどを揶揄されて、うつ病になってしまいます。
高学歴ワーキングプアとして貧困問題に取り組む団体の活動やデモなどにも参加したときも「あなたは甘い! 落ちるとこまで落ちていない!」と学歴があるにもかかわらず、困窮していることを責められたそうです。
学歴を持っているがゆえに落ちきることができない。学歴のためだけに努力してきたのに、それが認められるどころか、実績と釣り合わない学歴に苦しめられている典型例ですね。
親は「学歴があるから自信を持て」と励ますが…
――学歴がかえって「烙印」になってしまったんですね。学歴偏重主義の父親は、考えを改めることはなかったのでしょうか。
むしろ、「それだけの学歴を持っている人はなかなかいないんだから、自信を持って頑張れ」と高学歴難民生活を応援してくれたそうです。でも、そうなると、子どもは親が「勉強をしていればいい」と思っていることに依存し、「勉強していれば、親は許してくれるだろう」と甘えてしまいますよね。
親に悪気はないんでしょうけれど、家族全体で現実が見えなくなってしまったことで、高学歴難民を生み出してしまいました。