社会状況はどんどん悪くなっている

――「高学歴難民」はさまざまな苦難を抱えていますが、社会や制度にも問題はあるのでしょうか?

それは大きいと言えます。文系では特に、教養科目は軽視されていると感じます。大学は職業訓練所ではなく、純粋に学問を学ぶための場所のはずなんですが……。かなり前からその問題は指摘されていますが、なかなか変わらないし、誰も高学歴難民を助けてくれません。私は現場で支援をすることが本業ですから、現状をどう打破できるのかという視点で本書を構成しました。

ただ、研究者に限らず、その職業に就きたいと思っている人全員の願いがかなうわけではありません。そのことを理解したうえで努力するしかありませんし、努力したうえで結果が出ないのであれば、別の道を探るしかない。

前述の40代男性も大学院に進学した理由のひとつには、小説家や文芸評論の書き手になるためのモラトリアム期間が欲しかったこともあったようです。最終ゴールが「物書き」であるならば、大学院ではなく、もっと違う道もあったのではないかとも思いました。

事件を起こしてしまう高学歴難民たち

――本書では「家族に迷惑をかけられない」という理由から、振り込め詐欺に加担してしまった事例も紹介されていました。

文系の大学院の博士課程を修了し、大学の非常勤や専門学校の講師を掛け持ちしていた男性の事例ですね。彼には家庭がありましたが、月10万円ほどの収入しかなく、生計は妻の収入に頼っていたそうです。

そんななか、妻から「年齢的にもそろそろ子どもが欲しい」と打ち明けられ、子どもを育てていく自信がないと素直に伝えることができず、2人の間に子どもをもうけることになります。しかし、これまで生計を支えてくれていた妻は、産後に心身ともに体調を崩してしまいます。妻の看病と子どもの世話をして、論文を書くという多忙な日々を送ることになり、生活はどんどん困窮していきました。

暗い部屋で途方に暮れる男性
写真=iStock.com/kuppa_rock
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そこで、短期で高収入のアルバイトを探していたところ、見つけたのが振り込め詐欺の実行犯でした。彼はその後、実刑判決を受けて刑務所で1年半服役し、現在は知人の会社で働いているそうです。