社長に叱られ気づいた「サービスの本質」

わたしは2日間、取材をした。スタッフの話を聞いた。風呂も入った。ハマームにも塩サウナにも3回ずつ入った。カプセルホテルで寝て、隣室のいびきも聞いた。朝ごはんのビュッフェも食べた。全身全霊を込めた取材だった。

野地秩嘉『サービスの達人に会いにいく プロフェッショナルサービスパーソン』(プレジデント社)

熱波師にも、ボディケアトレーナーにもツムツムにも感心した。だが、もっとも、やるなあと思ったのは次のエピソードだったのである。

ツムツムは言った。

「私がこちらに着任してすぐのことでした。夜、台風が来まして。電車が全部止まってしまったのです。行くところがなくて、大勢の方が雨宿りのために詰めかけてきたんです。

リクライニングシートのベッドもいっぱい、カプセルホテルも満室で、何人かのお客様をお断りしたんです。そうしたら翌朝、社長から大目玉を食らいました。

『総支配人、きみは何を考えているのか。こういう時こそ、困っているお客様を助けてお迎えするのが本来のサービスではないか。何もわかっていないんだな』

私は恥じ入りました。

神戸サウナ&スパは台風などの災害時も避難し、休憩できる場所としてお客様をお迎えするのです。我々のモットーである『おもてなしの心』でこれからもサービスしてまいります」

以後、ツムツムは台風が近づいてくると、床を必死に掃除する。毛布を揃える。そうして、誰が来てもいいように、フロントで待機する。それがサウナのいちばんのサービスだ。

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