※本稿は、野地秩嘉『サービスの達人に会いにいく プロフェッショナルサービスパーソン』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
「お前はどうする?」
横に座っていた編集者Kは全裸だ。汗みどろのKは目の前に立った男に向かって、恥ずかしそうに指を2本、示し、うつむく。恥じ入っているようにも見えた。
Kはがっしりしていて戦車のような身体つきをしている。たくましい。ほれぼれする身体だ。日焼けしていて、目つきは鋭い。仕事もできる男なのだろう、おそらくは……。
いや、自分でそう吹聴していると聞いたことがある。厚かましい男だ。それなのに、たったの2回だ。恥じ入っている様子をしたのはそのせいだろう。それにしても、2回だ。
それではおかわりの意味をなさない。いったい、何を考えているのか。ちゃんと取材をしようという闘魂はないのか……。
「軟弱ものめ!」
わたしはせせら笑い、熱風の攻撃に苦悶し、嗚咽する彼を見やった。一方、Kを撃破した男は無表情のまま移動し、わたしの前に立った。
「お前はどうする?」
言葉にはせず、首をかしげた男の口元には微笑みさえ浮かんでいた。
自暴自棄になり、「10回!」
ええい、ままよと自暴自棄になったわたしはとっさに両手の指を広げて突き出した。
「10回! おかわりお願いします」
周囲からは「おお」「あっぱれ」「にっぽんいち」というつぶやきが聞こえてきた。
前に立った男、熱波師の前田は「ふむ」と言い、上等じゃないか、それなら、こちらもやり抜いてみせると表情をひきしめた。
彼はバスタオルを握りしめると、大きく振りかぶり、全身の力をバスタオルに託した。
エビぞりになった体を前に倒す。と同時に強烈な熱風がわたしを襲った。一度ではない。
2回、3回、4回……、回を追うごとに前田のエビぞり角度は増していく。顔は真っ赤だ。
熱風のハリケーンはわたしの体感温度を上昇させていく……。
いったい、わたしはどこまで耐えられるのだろうか?