DVへの対応は相手から「離れる」
夫婦関係の悩みで一番切実なのは、DV(ドメスティック・バイオレンス)ではないでしょうか。
いわれのない肉体的・精神的苦痛を受けるわけですし、場合によっては命にかかわることだってあるからです。
私たち精神科医は、さまざまな夫婦の問題について相談を受けることがありますし、カウンセリングやアドバイスもします。
ただ、カウンセリング中に「離婚されたほうがいいですよ」とは原則としていいません。カウンセリング中は精神的に不安定になることが多いうえ、最終的に本人が結論を出すことが原則だからです。
しかしながら、DVへの対応の基本は、やはり相手から「離れる」ことです。なぜなら、相手のDVが治る確率はきわめて低いから。
事実、「もう二度としません」と言質をとっても、土下座までして詫びてもらっても、それまでと同じ暮らしを続けていると、必ずといっていいほど、“再発”します。
DVという行為をやめさせる方向での解決は、まず、期待できないのです。そのため、この問題だけは、離婚を前提に離れることを勧めます。
ですから、DVを受けている人は、“解決できない”という前提で、どうするかを悩む(考える)ことが必要です。
相手の行動よりも自分の行動を変える
ところが、普通に考えれば、DVは治らないのだから、すぐにも相手から離れるという結論にいたりそうなものですが、これがなかなか一筋縄ではいきません。
トラウマ理論で「サレンダー(降伏)状態」というのですが、暴力を受けている間に、相手をある種理想化してしまうことがあります。
殴られるのは自分がいたらないからだとか、悪いからだという思いになって、そんな自分を正すために、相手は暴力をふるってくれている、と考えてしまうのです。
そんな状態にある人は、なかば強制的にシェルターに入ってもらうことがあります。シェルターには同じような境遇の人たちがいますから、その人たちと触れ合うことで、冷静さを取り戻し、自ら離れようという結論に達してもらおうとするわけです。
ここまでいくケースはかなり特殊だといえますが、一般的にはこんなことがいえるかもしれません。
相手をどうにかしようと悩んでも、問題は解決されない。そうではなく、自分がどうするかを悩むことによって問題は解決する。
DVのケースでいうならば、「DVをやめてほしい」というのは、DVをふるう相手をどうにかしようとすることです。
しかし、被害者や周囲がどう働きかけてもDVは治りません(例外はありますが……)。つまり、問題は解決されないのです。
一方、自分がどうするかを悩めば、相手から離れるという決断にもつながるでしょう。
最終的に離れればDVを受けることはなくなるわけですから、問題は解決されることになります。