組織のトップにいる人は、孤独をより強く感じている人が多いかもしれません。さまざまな判断を自分でしていかなければなりませんから気持ちに余裕がなくなりがちです。たしかに、リーダーシップを発揮するということは孤独に負けない強い気持ちを持つということなのでしょう。でも、リーダーだからといって、人を見下ろすことをしてはなりません。
「そういうあなたは、裏千家の家元として頂点にいるじゃないか」とおっしゃる方もいるでしょう。私は、自分の役割を500年以上続く伝統と大きな組織を下から持ち上げ、守るための存在と思い、今までやってきています。
何か重要な決議をするときは役員たちと討議をします。けれど、役員全員が「イエス」と言っても、自分でその判断が「危ない」と感じたら、「ノー」と言えるだけの決断力がなくてはいけません。それをただ、伝統の上にあぐらをかいていたら、あっという間に座布団から引きずりおろされてしまいます。そうならないために、孤独に耐え、冷静な判断ができるようこれまで毎日毎日、厳しい修業を積んできたのです。
誰もが悩みや苦しみを抱えているものです。悩むということは、頭の中の整理ができない状況にあるということ。整理がつかないから、つまらないことでもどんどん悩みとして膨らんでいくのです。そして、「自分だけが」と孤立させることで、よけいに追い詰められてしまうのです。
私が世界中どこへ行っても使う言葉があります。「All together with you」。「みんな一緒だよ」ということです。楽しそうにしている人も、すましている人も、それに私も、皆同じように悩みを持っています。苦しんでいるのは自分だけではないと思うことで気持ちを楽にしてください。そして、決して自分の殻に閉じこもらないこと。何を言われようが、何があろうがいつも胸を張って人の前に出ていくのです。
「言いたい人は好きに言ったらよいではないか」と。
2010年春に一冊の本を書きました。『いい人ぶらずに生きてみよう』というタイトルです。この世に生きている人は、どんな人であれ、みんなが悪の気持ちをどこかに抱いているのです。生まれてから一度も嘘をついたことのない人など、どこにもいません。
人間は大して立派なものではないのです。ですから、「どうして自分だけが」「誰も自分を理解してくれない」などと、いじけたりくじけたりしないこと。悩んで暗い顔ばかりしていたら、ますます自分を破滅させてしまいます。
何度も申します。みんなが考えていることや悩みは一緒なのです。仏教でいうところの「一蓮托生」です。人間生まれてから死ぬまで運命は皆一緒。そこに大した差はありません。それなら、周りの人たちを豊かな気分にすることで自分も豊かな気持ちになるのがいちばんではないでしょうか。
※すべて雑誌掲載当時
千 玄室
1923年、京都府生まれ。同志社大学卒業。国内外で茶道文化の普及に大きく貢献したことが評価され、97年、茶道界初の文化勲章を受章。日本・国連親善大使、日本国 観光親善大使も務める。哲学博士。文学博士。近著『いい人ぶらずに生きてみよう』ほか著書多数。