ドナルド・トランプのような人も社会には必要

【松本】全体主義を防ぐという議論においては、いわゆる「狂人」を社会から排除しない、という考えもあります。つまり、何を言い出すかわからない人、何をやり出すかわからない人を話し合いの場所に参加させる、ということです。

これは馬鹿なことを言っているようでいて、実はこれこそが、ポストモダンの要件だと思います。ポストモダンを代表する人物にジル・ドゥルーズがいますが、彼においても「精神分裂」ということが一つの社会モデルとして提案されています。一般的な考え方とは違う人が議論に加わる状況をつくり出すことが不可欠だ、という。

【茂木】僕の頭に浮かんだのは、ドナルド・トランプです。彼のような人も、社会には必要なのです。

【松本】アメリカ社会は今、トランプを排除しています。そして、日本人の多くが、それをなんとも思っていない。

茂木誠・松本誠一郎『“いまの世界”がわかる哲学&近現代史 プーチン、全体主義、保守主義』(マガジンハウス新書)

【茂木】リン・ウッドというトランプの弁護団長がいます。彼に対し、弁護士組合が「精神鑑定を受けろ」と言いだしたことがあります。「精神鑑定を受けなかったら除名する」というのです。これは共産党の常套手段です。反体制派を精神病院にぶち込む。アメリカでも始まってしまったと思い、ぞっとしました。

【松本】トランプは頭がおかしい、リン・ウッドも頭がおかしい。彼のサポーターも頭がおかしい。だから、彼らの発言はバンしてしまえ、と。

【茂木】これこそ、全体主義です。

【松本】2017年から2021年というのは、狂人のような人物がアメリカ大統領をした稀有な4年間だった。そしてそれを、アメリカ国民が潰した……。考えの違う存在を排除しない社会、を常に心がけなければいけませんね。

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