※本稿は、茂木誠・松本誠一郎『“いまの世界”がわかる哲学&近現代史 プーチン、全体主義、保守主義』(マガジンハウス新書)の一部を再編集したものです。
リバタリアニズムは全体主義への防波堤になるのか
【松本】ここまで、プーチン及びロシア人の思想背景と歴史についてお話ししてきました。第3回では、いま世界中に蔓延っている「全体主義」に対して私たちはどのような理論武装をしたらいいのか、その方向性を考えてみたいと思います。
「リバタリアニズム」という思想を補助線にしてみましょう。全体主義が、国家という名のもとに個人を抑圧する思想だとするなら、個人にとことん寄り添う思想のリバタリアニズムで対抗できるのではないでしょうか?
【茂木】リバタリアニズム(libertarianism)は、個人的な自由、経済的な自由の双方を重視する、自由主義上の思想・哲学です。ですから、リバタリアニズムは全体主義の最も対局にある思想です。
全体主義の悪魔は「貧しい者を救う」と言って忍び寄る
【松本】リバタリアニズムは、もともと無政府主義から出てきました。歴史的には共産主義と軌を一にして出てきた思想ですが、やがて共産主義と決別しました。
その後、「資本主義の中でも無政府主義はできる」というところから、「資本主義リバタリアニズム」あるいは「資本主義・無政府主義」という考え方も出てきました。この資本主義+無政府主義の流れで、今、アメリカおよび世界のリバタリアニズムはおおかた統一されていると思います。資本主義を堅持しながら個人の自由も大切にするというリバタリアニズムは、全体主義の強力な防波堤のひとつになりうる。
【茂木】全体主義という悪魔は最初、「貧しい者を救う」「抑圧された者を救う」と言って忍び寄ってきます。そして「君たちを苦しめている敵がいるから、一緒に戦おう」と言い、徐々に洗脳する。これはソ連共産党もナチス・ドイツも同様です。
善意から共産党やナチスに入った人も大勢いた。つまり、「様々な個人の抱えている問題をなにか大きな力にすがって解決しよう」という心の持ちようが、実は全体主義の扉を開いてしまうのです。