同じ“3.11”後の4月から、東京・銀座の画廊「銀座モダンアート」で月1回夜、5人の僧侶を集めて開かれる「僧職男子に癒されナイト」は、お勤めの後に僧侶1人を女性3~4人で囲み、東北産の日本酒や精進料理を楽しみながら相談事を聞く催しだ。

画廊の床に茣蓙を敷き、車座で酒と食事と会話。「お坊さんに相談すると、興奮したり落ち込んだりせずに、1人で静かに考えることができます。なんででしょうね」(参加した女性)。

その僧侶の1人である千葉・天真寺(同派)の西原龍哉氏(36歳)は、「20~30代の女性が主。上司とうまくいかない、等々仕事の人間関係や付き合っている男性のこと、『男性とどう向き合っていいかわからない』等の恋愛相談、いけないとわかっていてもつい怒ってしまう、といった悩みも」

不動産業の傍ら「モダンアート」を営む鳥居友佳里氏(30歳)は、09年に50代の母親を突然亡くした際に仏教に触れ、「救われた」と感じたという原体験があった。

「昨年、異業種交流会で平井裕善さん(38歳、山梨県・浄照寺、同派)とお会いして、仏教ってこんなに楽しいものなんだと再認識した」(鳥居氏)

その3日後、東北を震災が襲った。

浄照寺 平井裕善
(38歳)両親は仏教とは無縁。幼時に実妹を亡くし、「どんな道に進んでも最後は死ぬ」と諦観。大学卒業後、「留学に行くような感覚」で仏門へ。

「以後、不安な気持ちを抱えたままの人たちは、もしかしたらお坊さんと話せば心が楽になるのでは? と考えて、平井さんに相談したんです」(同)

平井氏と協力して、「気軽に来て」と画廊のホームページやツイッターで拡散。1人1000円の入場料は復興の義捐金とした。すると4月の初日には、20平方メートル程度の画廊に押し寄せた約50人の女性が廊下まで溢れた。

当初は僧侶側が一方的に話をするだけだったが、自然と今の形に落ち着いたという。酒を飲みながらの気楽な場だが、ファンレターや追っかけが登場する浮ついた雰囲気は皆無だ。

「つい『いい答え、いい言葉を出そう、まとめよう』としていましたが、『だよね』と言ってるほうがいいとわかってきた。よく坊さんの話は長いといわれます(苦笑)。大阪がルーツでしゃべりたい派の私も、何か聞かれたときだけ答えるように気を付けています」

天真寺 西原龍哉
(36歳)法大在学中は司法書士を目指したが、浪人中に仏教の専門学校へ通った“縁”で実家の寺を継ぐ。近年は「農園で草むしりの日々」とか。

とは当の平井氏。「若い人に『お寺に来てください』と言ったら『何しに?』と返されて衝撃を受けた。お会いする檀家さんはご高齢の方が多く、会話も仏像やお墓についてがほとんど。想像もつかぬ質問もいただくこの場は、私たちにとっても大事な修行の場です」(同)。もっとも、「ある高齢の住職が『昔は女性の門徒・檀家がそんな相談をしにきていた』と語っていた」(同)というから、実は彼らの試みはもともと行っていたことへの“原点回帰”なのだと気付く。

「仏教はいつもその時代に生きている人に語りかけなければならない。しかし、従来の言葉では伝わらないことも。聞き手と語り手の新しい接点が開発される時期かも」と前出の木原氏が語る通り、こうした若い僧侶たちは、いわば仏教という優れたコンテンツと一般人との新しいチャンネル役である。
 

※詳しくはこちら
・梅上山光明寺(
http://www.komyo.net/kot/
・銀座モダンアート(
http://ginzamodernart.com/boowz/
(岡本 凛、豊島誠志=撮影)
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