殻を外されるとカタツムリは死んでしまう

実際問題、カタツムリの殻を「脱がす」と、カタツムリは死んでしまう。カタツムリとナメクジは別の生き物であり、カタツムリの中で、殻をなくす方向に進化したものがナメクジである。そうしたことを、忘年会の席上、「カタツムリ=ヤドカリ説」を信じていた質問者に説明した。

「昨日や今日、殻をなくしたわけじゃないんですね」
「そうですよ。よく、カタツムリの殻を取ったらナメクジになる? なんて言う人がいますけど、カタツムリの殻を取ったら、内臓が出てきて死んじゃいますよ。ナメクジはその内臓を体の中にしまったんです」
「えっ、内臓があるんですか?」

今度は、こんなことを聞き返されてしまう。カタツムリの殻の中身がどうなっているかは、一般的にはブラックボックスであるわけだ。

「アフリカマイマイもカタツムリですか?」

続いて、そんな質問が繰り出された。アフリカマイマイは、沖縄の島々では普通に見かけるカタツムリだ。殻は一般的なカタツムリのように丸まった形ではなく、海に棲む巻貝でよく見かけるような先細りをした形だ。最大で20センチにもなるというが、よく見かけるのは殻長が10センチたらずの大きさのものだ。

アフリカマイマイは戦前、食用になるという触れ込みで沖縄に持ち込まれ、その後、野生化して作物の害虫と化した。また体内に、人にも被害を及ぼすことのある寄生虫(広東住血線虫)を宿しているため、大型で目立つだけでなく、沖縄ではきわめて知名度が高い生き物となっている。もっとも、知名度が高いというのは「キラワレモノ」としてだ。

カタツムリに詳しい人は多くない

ところで、こうしたやりとりによって気づいたのは、どうやら沖縄の一般の人々は、陸に棲む貝に対して、認識上、「ナメクジ、カタツムリ」という区分とは別に、「アフリカマイマイ」が特別に意識される存在となっている、ということだ。「アフリカマイマイは、カタツムリとは別物」という認識の存在も見え隠れする。

盛口満『マイマイは美味いのか』(岩波書店)

この点について、私のゼミ生だった照喜名愛香さんが、大学生を対象にアンケート調査を行ってくれた。「知っているカタツムリの種類」についてのアンケート結果(総数95名、複数回答あり)は、無回答が31名(32%)、アフリカマイマイと回答した者が61名(64%)、ナメクジと回答した者が2名(2%)という結果だった。なお、愛香さんの調査では、エスカルゴのほか、「アオミオカタニシ」といった、カタツムリの個別名をあげた回答が8例見られた。

以上のことから、沖縄の一般の学生のカタツムリの認識は次のようにまとめることができる。

・カタツムリはナメクジと区分されている(ただし「カタツムリ=ヤドカリ説」を信じている場合がある)。
・カタツムリの個別名はほとんど知らない。
・カタツムリの中でアフリカマイマイはきわめて知名度が高い(ただし、先に書いたように、カタツムリとは別の区分として、アフリカマイマイをとらえている場合もある)。
・なお、個別名を知らない場合でも、カタツムリに「普通のカタツムリ」と「特別なカタツムリ」という区分がなされている場合がある。後者に含まれるのはエスカルゴなどのカタツムリである。

日本全体では、カタツムリとナメクジを合わせて、陸貝は1000種ほどいる。『沖縄県史』によれば、沖縄県だけでも陸貝は140種ほどがいるとされている。しかし、学生のほとんどは、カタツムリにも種類があることはうっすら認識してはいるものの、個別名までは知らない。カタツムリにいったいどのくらい種類があるのかも知らない。

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