留年は「珍しいことではない」

慶應高野球部の主力選手の多くは推薦枠で入学しているが、彼らは中学時代、野球ばかりしていたわけではなく、学校の成績もトップクラスだったのだ。実は、今季の甲子園に出場している他校の有力選手の中にも、慶應高を受験し、内申点が足りずに不合格になった選手が何人かいる。

推薦枠で合格した選手は、入学してしまえば、一般入試で入った生徒と何ら変わらない。強豪私学によくある「スポーツコース」のような特別扱いはしない。特待生も学費免除も一切ない。定期試験で落第点を取れば、どしどし留年させる。

「他校では、テストの点数に下駄を履かせたり、補講をするなど、落第しそうな生徒にはいろんな救済措置をとっているようですが、うちはそういう制度は一切ありません。テストで1点足らなくても『はい、留年』とスパッと決まります」と森林監督はさりげなく話す。

ちなみに森林監督は慶應幼稚舎(小学校)の教員だ。高校の教師から提供された選手の成績に常に目を光らせている。

清原和博氏の次男の清原勝児が留年したことが話題になったが、「珍しいことでも何でもないですね。留年した選手には“大学入試で浪人したと思えばいいんだ”と話します」と事もなげに言う。

必要なのは経済的な余裕

慶應高には野球部寮も学寮もない。野球選手であっても通いが基本だ。だから基本的には関東圏に家がある選手しか通学できないが、中には地方から慶應高を受験して、学校の近くにマンションを借りたりして通学する生徒もいる。

慶應高の生徒はほぼ全員慶應義塾大学に進む。「慶應ブランド」を得るための教育投資と考える家もあるのだ。勉強ができても、野球がうまくても経済的に余裕がなければ慶應高に進むことができないのもまた現実ではある。

今大会では、慶應高の長髪が話題になったが、慶應高が長髪になったのは数十年以上前のことであり、それがニュースになることに、慶應の関係者からは驚きの声が出ている。髪型だけでなく、「慶應では当たり前」が「一般社会ではすごいこと」になるケースがしばしばあるのだ。