なぜ高校野球部のほとんどはいまだに坊主頭なのか。慶應義塾高校野球部の森林貴彦監督は「高校野球は誰のものかといえば、選手のものだ。一人ひとりが毎日、『今日も野球がやりたいな』という気持ちで練習に来てくれるためにはどうすればいいか。頭髪についても『右へならえ』で済ませてしまってはいけない」という——。(第1回)

※本稿は、森林貴彦『Thinking Baseball 慶應義塾高校が目指す“野球を通じて引き出す価値&fdquo;』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

慶應義塾高校野球部の森林貴彦監督
写真提供=東洋館出版社
慶應義塾高校野球部の森林貴彦監督

同調圧力、思考停止、主従関係の象徴となってはいないか

21世紀になって20年が経過しましたが、高校野球部のほとんどはいまだに坊主頭のようです。

まず根本的なことを記せば、坊主頭にしていること、それ自体は大きな問題ではありません。より真剣に考えなければならないのは、「高校野球と言えばやはり坊主頭が主流。そこから飛び出るのは嫌だな」と考えてしまう同調圧力、あるいは「昔から坊主頭が当たり前なのだから、それでいいじゃないか」という旧態依然とした習わしに倣っただけの思考停止。そちらのほうが罪深いと思います。

さらに個人的な感覚で言えば、主従関係で従属することの象徴と捉えられる部分もあって、その点でも好ましくない印象を持っています。ミスをしたり、チームのルールを破った選手に対して、坊主頭を“罰”として強制する文化も早くなくさなければならないことの一つです。

つまりは「右へならえ」で済ませてしまって何も考えない、疑問を持たないことが問題であり、しっかりと議論をした上で「坊主頭でやっていく」と決めたチームであるならば、それは何も間違いではありません。

甲子園出場校でも、旭川大、秋田中央、花巻東は坊主頭ではない

慶應義塾高校野球部では坊主頭は強制していませんが、個人的にそうしたいという選手がいれば認めています。部員は全体で約100名ほどですが、そのうち若干名が坊主頭。本人が望み、「そうしたい」という意志を持っているのであれば、当然、尊重します。

ただし、まったくの自由というわけではありません。前髪が目にかかってボールが見えにくい状態であったり、投げたあとすぐに帽子が取れてしまうなど、プレーに影響を及ぼすほどの長髪は、私自身の判断で禁止にしています。その線引きさえ正しくできていれば、髪型が野球に影響を与えることはないはずです。

慶應義塾高校野球部では戦後間もなくの時点で既に坊主頭を強制していなかったという記録が残っています。「野球はそもそもスポーツであり、基本的には楽しむもの。だからこそ坊主頭にしなければならないという強制はおかしい」。こうした考え方が慶應には根強く、それがいまでも引き継がれているのです。

近年、甲子園に出場している高校で言えば、旭川大、秋田中央、花巻東の3校は坊主頭ではありません。特に秋田中央は、私から見てもカッコいいと感じる髪型の選手が多く、今後はこうした学校が間違いなく増えると思います。いまはそのスタート地点であり、これからの5年、10年で大きく変わると思います。