陸上自衛隊は、日々どのような訓練をしているのか。『自衛隊は市街戦を戦えるか』(新潮新書)を出した元陸将補の二見龍氏は「サイバーや宇宙、市街地が主戦場になる中、陸自は原野で「突撃」を前提とした陣地防御や陣地攻撃訓練を続けている。日露戦争以来の悪弊が今も残っている」という——。
根強い「消耗戦型」の戦争イメージ
一般の人がもつ陸上自衛隊の訓練のイメージは、何もない原野で戦車や装甲車が走り回り、大砲(特科部隊)が遠くの目標へ大量の砲弾を撃ち込んでいる「富士総合火力演習」ではないでしょうか。両軍が塹壕を掘り、どちらかが戦争を継続できなくなるまで長期間にわたって塹壕戦で対峙する第二次世界大戦のような「消耗戦型の戦争」の印象はいまだに根強いものがあるでしょう。
しかし、考えてもらえばわかると思いますが、そんな原野に敵が攻めてくることが現代にあるでしょうか。日本で戦いが起こるとすれば国家中枢、都市中枢などの市街地になると捉えることが現実的です。
「そんなことはあり得ない」、「そんなふうになったらおしまいだ」と思っている人が多いかもしれません。「日本で市街戦が起こる」=「本土決戦」=「焼け野原」というような太平洋戦争で敗戦したイメージで戦争を捉えている人が多いからだと思います。
しかし、国外の紛争でも、いまや主な戦場となるのは人々が生活を営む市街地です。現在のハイブリッド戦争(正規、非正規軍の他、サイバー戦や情報戦を組み合わせる戦い方)では、住民に極力損害を与えないように都市部の主要施設を占拠することで、戦争に勝利するという目的を達成します。
多くの兵士が消耗し、住民に被害が生じるような戦いは、国際的にも国内的にも許容できないものになってきました。第二次世界大戦において繰り広げられていたような戦車を主体にした機動戦や火力戦、大規模な上陸作戦を伴う戦いのイメージは、大きく変化しているのです(これらの実態については、新著『自衛隊は市街戦を戦えるか』で詳述しています)。