「突撃」を支える銃剣道

「陸上自衛隊はいまだ突撃をしているのか」と驚かれた方も多いのではないかと思いますが、この「突撃」と切っても切れない競技が陸上自衛隊では立派に生き残っています。「銃剣道」です。

知らない方もいるかもしれないので少し説明しておきますと、「銃剣道」とは剣道のような防具をつけて竹刀の代わりに木製の銃(木銃)で相手と突き合う競技です。もともと明治時代にフランスから伝来した西洋式銃剣術(銃の先に剣をつけた状態で戦う戦闘技術)に日本の剣道や槍術の技術を取り入れてスポーツ化したものです。

第二次世界大戦後一時期中断されましたが、その後、復興しました。大学や実業団でも行われていますが、競技人口の大半は陸上自衛隊関係者です。武道としての魅力はともかく、装備も戦い方も変化した現代の戦闘において銃剣道が必要な状況はまれと言ってよいでしょう。

しかし、それがいまだに自衛隊内では続いています。2000年頃、今の時代に銃剣道の訓練を行う必要があるのかが議論されたことはあります。しかし、銃剣道がなくなることはありませんでした。「銃剣道継続支持」派の人たちは陸上自衛隊内に定着し、部外で応援するOBや関係者も多く、全国規模で支援されてきたからです。

銃剣道一筋で生きていた隊員もいれば、部隊同士で競う銃剣道競技会も毎年行われ、競技会の選手に選ばれるだけで一目置かれるのが現実です。「銃剣道が強い」=「自衛隊生活が有利になる」のです。

実戦とかけ離れた突撃と銃剣刺突の癖

実戦で役立つとは思えないこの銃剣道が、陸上自衛隊では一般の戦闘訓練よりも優先して行われているという現実を知ったら、皆さんはどう思われるでしょう。

さらに言えば、第一線部隊では相変わらず突撃訓練が行われているのです。陸上自衛隊の陣地攻撃では、陣地に突入後、巻き藁で作った俵や標的へ銃剣を何ヵ所か突いて敵を倒し、通常、そこで訓練は終了となります。大きな声を上げて突撃する様子は一見勇猛果敢で非常に強い印象を受けます。数十名の隊員が丘陵の頂上を目指し、横一線となって突撃していく光景は、まさに圧巻です。

隊員が横の線を崩さず突入すると、「きちんと横一線に隊員が展開していてよろしい」と幹部や訓練補助官が高い評価を下します。視察している部隊長も「迫力のある攻撃だ。よく頑張っている」と褒めるのです。

しかし、一般の方でもおわかりになると思うのですが、現代戦では、敵の火点(自動小銃や機関銃等)が残っているだけで、こうした突撃部隊はあっという間に倒されてしまうのが現実です。