陸上自衛隊には、戦闘について学ぶ教科書として「教範」といわれるものがあります。幹部必読の書です。その「教範」には、火力によって十分に敵を叩き潰してから敵陣地へ前進・突入するように記述されているのです。

したがって、部隊・隊員は、敵の陣地の近くに来ると、突撃と銃剣刺突をする癖が長い年月をかけて頑固にしみ付いています。あまりにも実戦とはかけ離れすぎています。

不毛な突撃を前提とした戦法が続くワケ

この「突撃」が不毛であることは、富士山の北麓に広がる北富士駐屯地に駐屯する富士トレーニングセンター(FTC)での訓練で明らかとなっています。実戦的な戦闘訓練を可能にするシステムを保有するFTCは無敗の強さでした。挑戦してくる日本全国の普通科中隊は連戦連敗で、壊滅状態にされたのです。

訓練の最終段階では「突撃」を実施するのですが、毎回、陣地内に残存している敵の小銃・機関銃の射撃により、突撃が始まった瞬間から、攻撃部隊はまるで射的の的となり、戦死者の山が築かれるのです。

二見龍『自衛隊は市街戦を戦えるか』(新潮新書)
二見龍『自衛隊は市街戦を戦えるか』(新潮新書)

もちろん、何人かが敵の射撃を潜り抜けることができれば白兵戦に持ちこめます。白兵戦で敵を倒す戦法は、まさに日露戦争そのものですが、今は防弾ベストがあります。銃剣が刺さるポイントは極めて限定されますし、そもそも単発式の三八式小銃の時代ではないのです。自動的に給弾され、連射で弾詰まりも少ない89式小銃を装備しているのですから、銃剣で刺す間合いに入る前に、敵の身体に何発も弾を送り込めます。

そんな「突撃」を今でも防衛大学校でも新隊員教育でも教え続けているのです。FTCでの教訓が何も生かされてはいません。なぜ教訓が生かされないのか。それは「突撃」が、陸上自衛隊で偏重されている「銃剣道」と表裏一体のものだからと私は考えています。

「突撃」という戦法が残っているから「銃剣道」も残る。「銃剣道」が続けられているから「突撃」の是非は見直されず、新しい戦法も開発されないままだと私は考えるのです。

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