近隣住民とのトラブル、労働事案、未知の病、気候変動、天変地異……あらゆるシーンで思いもよらない「想定外の困難」に遭遇する機会が増えている。危機を乗り越えるには対象について正しく補足・分析し、対処法を考えるだけでなく、「セルフコントロール」の力が重要だ。元陸将補の二見龍氏が上梓した『自衛隊式セルフコントロール』から、一般のわれわれも使える自衛隊式リスク対応のコツと技術を特別公開する──。(第2回/全2回)

*本稿は、二見龍『自衛隊式セルフコントロール』(講談社ビーシー/講談社)の一部を再編集したものです。

自衛隊が行う「自由対抗方式」の訓練

ある目的を達成しようとするとき、それを阻害しようとする敵の存在や正確な実態がわからないと、不安や心配が増幅されていきます。

これを防ぐためには、自分が対峙たいじする可能性のある敵とはいったい何なのか、正確な情報を収集して分析し、敵の正体を突き止めていく必要があります。そうすることで、正体不明の敵であったものが、理解を深める過程で、対応可能な障害へと変化していきます。

こうなると自分自身の心もコントロールが可能になり、得体の知れない恐怖心だったものを、適切な緊張感という味方に変えることができます。

自衛隊では、自由対抗方式の戦闘訓練を行います。これは実際の人員で行うこともあれば、コンピュータ・シミュレーションによって行うこともあります。

対峙する部隊は互いに、相手の兵力や予想される行動の分析を行い、対抗策を準備して、敵の動きを封じたり、無力化したり、また奇襲を受けないように作戦を考えます。

陸自・装甲車帽
写真=iStock.com/Josiah S
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正体不明の相手を「見える化」する

さらに実戦となった場合は、相手の指揮官の性格や受けた教育の内容、今まで経験した訓練の内容まで調べます。

「積極性を好み、攻撃の訓練を多く行ってきた指揮官」という情報がわかれば、敵の指揮官がどういう行動を取るのか読みやすくなります。また、「防御訓練をほとんど行っていない指揮官」ということがわかれば、防御を行わざるを得ない状況を作ることによって、敵の不得意なステージで戦うことができます。

敵の特性に関する情報を収集し、敵の「見える化」ができれば戦いは非常に有利に展開できます。

一方、敵を見つけることができなかったり、あるいは存在自体が不確かであったり、実態が不明確だったりすると、正確性の低い情報に踊らされ、心が乱れ、消耗してしまいます。つまり、敵がどのようなものかを冷静に突き止めていくことは非常に重要なことなのです。