少年野球はこのままでいいのか。慶應義塾高校野球部の森林貴彦監督は「小学生や中学生が、やるスポーツとして野球を選ばなくなっている。その減少は少子化よりはやく、このままでは甲子園大会も続けられなくなる」と警鐘を鳴らす——。(第2回)

※本稿は、森林貴彦『Thinking Baseball 慶應義塾高校が目指す“野球を通じて引き出す価値”』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

慶應義塾高校野球部の森林貴彦監督
写真提供=東洋館出版社
慶應義塾高校野球部の森林貴彦監督

少年たちは野球を楽しんでいるか

ここまで高校野球の問題点を記してきましたが、実は、少年野球はその比ではないほど、理不尽なことが行われています。

特にチームのエース級の投手にかかる負担の大きさはひどく、目を覆うほど酷使されています。週末の土日のゲームに連投して、日曜日の2試合目にはキャッチャーをさせられる。キャッチャーは毎回、返球しなければならないので、体をより酷使することになり、肘や肩を痛める子どもが非常にたくさんいるのです。さらには完治する前に、また投げさせる……。そんなことが繰り返され、その結果、故障は悪化し、中学以降は野球から離れたり、投手ができなくなったりする選手がたくさんいます。

あるいは高校生になってから、弱っていた靱帯が力尽きて切れることもあります。ケガや故障の発症は高校の時点であっても、小学校や中学校のときの疲弊が根本的な原因であることは大変多いのです。

また、腰椎分離症を抱える選手も多いのですが、これは小学校、中学校の段階で、素振りなどの練習をし過ぎたことが原因の一つです。まだ骨が固まっていない状態で、片方向の回転を過度に繰り返すことによって腰椎に余計な負荷がかかります。

小学生や中学生の段階で発症し、高校生で痛みが強くなって手術に踏み切るケースも少なくありません。少年野球で生まれた歪みが、高校野球で悪影響を及ぼす典型的な例の一つと言えます。

「子どもたちを勝たせたい」と言いながら、結局は自分が勝ちたい

こうしたことが起こる原因はやはり大人、指導者に大きな責任があります。口では「子どもたちを勝たせたい」と言いながらも、結局は自分が勝って評価されたいという欲求を満たすために、小学生や中学生に前述したような過剰な負荷をかけてしまうのです。まさしく高校野球にも通じる“大人のエゴ”です。

その原因の一つには、小学校レベルでの大会、公式戦が多過ぎることが挙げられるでしょう。高校野球の場合は多少の地域差はあっても、基本的には春、夏、秋の大会が行われる程度です。しかし少年野球に限れば、区や市、私設リーグの大会が頻繁に行われ、週末には大会を掛け持ちし、ハシゴしているチームも少なくありません。

その結果、チームによっては年間二百数十という試合をこなすことになり、それを自慢気に語る監督までいるのですから、事態は相当に深刻だと言わざるを得ません。しかも何百という試合を本当に限られた数の投手で回しているチームも多く、考えただけで恐ろしさを覚えてしまいます。